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「食べやすさ」の定量的評価法を開発~嚥下患者用食品の安全性数値化に期待~(工学研究院 准教授 田坂裕司)

2022年4月26日

ポイント

●経時変化する嚥下補助食品の流動物性評価に成功。
●各種嚥下補助食品の機能性を定量的に裏付け。
●不均質な食品の流動物性評価に期待。

概要

北海道大学大学院工学研究院の田坂裕司准教授,同大学院工学院博士後期課程の大家広平氏,ならびに北海道大学病院の千葉春子助教,熊谷聡美栄養士長らの研究グループは,食品の食べやすさに定量的な基準を与える新たな評価法を提案しました。

摂食過程で,食品の多くは剪断の強さ・変形の速さによってその粘度が変化します。さらには,咀嚼による剪断変形と,唾液に含まれるアミラーゼとの加水分解により食塊の状態が変化するため,経時変化を追うことができない既存の計測法ではその正しい評価が困難でした。そもそも,果肉や固形物を残す不均質な食塊に対しては,その流動物性を評価できる方法自体が存在しませんでした。

今回使用された「回転式超音波レオメトリ」は,試験対象の液体を満たした円筒容器を振動回転させ,生じる流れを超音波により計測し,流体力学の方程式を介して流動物性を評価する方法です。研究グループにより開発されたこの手法は,これまでにもフルーチェの流動物性評価などに用いられてきましたが,北海道大学病院の協力を得て,「食べやすさ」の評価方法を確立すべく,まずは誤嚥防止に用いられてきた嚥下補助食品の定量的評価が行われました。

研究グループは,3種類の嚥下補助食品について,アミラーゼを加えた計測により咀嚼・嚥下過程を模擬し,その計測結果を2つの数値で表して流動物性の時間変化を図にプロットする手法を考案しました。これまで,経験的に知られていた補助食品の機能性が,初めて時間変化として定量的に示されました。これらの成果は今後,「食べやすさ」を評価する新しい手法として,次世代の基準策定に用いられることが期待されます。

なお,本研究成果は,2022年3月26日(土)公開のJournal of Texture Studies誌に掲載されました。

論文名:A method for evaluating time-resolved rheological functionalities of fluid foods(流動食品の時間変化するレオロジー的機能性を評価する方法)
URL:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/jtxs.12679

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アミラーゼを添加し傾斜板に滴下した液滴の振る舞い。(左)デンプン系,(右)キサンタンガム系の嚥下補助食品,数値は経過秒数。デンプン系は加水分解により粘度が低下し流下するのに対し,キサンタンガム系は粘度が保持されるので垂れにくい。既存の方法では経時変化する流動物性を計測できない。