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高山植物がきれいなのは虫に花粉を運ばせるためだった~他家受粉に特化した高山植物の繁殖システムを解明~(地球環境科学研究院 准教授 工藤 岳)

2022年5月12日

ポイント

●高山植物は,低地性植物に比べて他家受粉に特化した種が多いことを発見。
●高山植物の多くは,ハエ・アブ類かマルハナバチに花粉運搬を託していることを実証。
●ハチ媒花植物の種子生産は,マルハナバチの季節活性を受けて大きく変動することを解明。

概要

北海道大学大学院地球環境科学研究院の工藤 岳准教授は,日本最大の高山生態系を有する北海道大雪山系で30年におよぶ高山植物の生態調査の結果,虫媒花植物の多くが他家受粉に特化していることを突きとめました。寒冷な高山環境では昆虫の活性が低いため,高山植物は十分な受粉サービスを受けられず,自家受粉によって子孫を残す種が多いのではないかと考えられてきました。ところが40種以上の高山植物を調べた結果,全体の85%の種は自殖能力を持たず,他殖のみを行っていることが明らかになりました。これは,陸域生態系全般で見られる傾向よりも顕著に他家受粉に偏ったものであり,高山植物の繁殖システムを根本的に見直す必要性を示唆するものです。

ほとんどの高山植物はハエ・アブ類かマルハナバチに花粉媒介を頼っていますが,両媒花グループで結実率の季節的傾向は異なりました。ハエ媒花植物では季節的な傾向が見られなかったのに対し,ハチ媒花植物の結実率は季節進行と伴に顕著に増加していました。生育期前半に開花すると受粉がうまく行われず,結実が制限されていた一方で,働きバチが現れる生育期後半に開花すると,結実率は大きく高まりました。ハチ媒花植物の種子生産はハチの季節性に強く依存しており,今後の気候変動で高山植物の開花時期が早まると,ハチと植物の共生関係が崩壊する可能性があります。

本研究成果は,202259日(月)公開のEcological Research誌にオンライン掲載されました。

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高山植物41種の交配システム(赤)を調べたところ,一般の植物(灰色)に比べて強く他植性に偏っていることが判明した。写真は調査を行った北海道大雪山系の調査地。