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がん細胞が集団で浸潤するメカニズムを解明~がんの浸潤を抑える新規治療法への貢献に期待~(先端生命科学研究院 教授 芳賀 永)

2022年5月24日

ポイント

●集団で浸潤するがん細胞の細胞-細胞間に,密閉された空間が存在することを発見。
●密閉された空間に存在するインターフェロンが転写調節因子STAT1を活性化させることを発見。
●STAT1が活性化したがん細胞が,がん細胞集団の浸潤を誘引することを解明。

概要

北海道大学大学院生命科学院博士後期課程の熊谷祐二氏,同大学大学院先端生命科学研究院の芳賀 永教授,石原誠一郎助教,同大学大学院医学研究院の小林純子講師,名古屋大学大学院医学系研究科の榎本 篤教授,秋山真志教授らの研究グループは,不均一な性質のがん細胞株から,集団で浸潤するがん細胞サブクローンと集団で浸潤しないがん細胞サブクローンをそれぞれ取り出し,それらの性質を比較することで,がん細胞が集団で浸潤する新規メカニズムを明らかにしました。

がん細胞が原発巣から周囲の正常組織に広がること(浸潤)は,がんが全身に広がること(転移)へ繋がります。最近では,がん細胞が集団として浸潤すること(集団浸潤)で,転移巣の形成を促進させることがわかってきました。このことから,集団浸潤を止めることで転移を抑えることができると考えられますが,その治療標的として適切な分子は十分に明らかになっていません。

研究グループは,集団浸潤するがん細胞の細胞と細胞の間に密閉された空間が存在することを発見し,そこに存在するインターフェロンIFNB)がヤヌスキナーゼ(JAK)及び転写調節因子STAT1の活性化を介して集団浸潤を促進させることを明らかにしました。また,STAT1が活性化したがん細胞は,浸潤する能力をもたないがん細胞を牽引し,一体となって集団浸潤を引き起こすことを明らかにしました。本研究の成果は,細胞間の構造とSTAT1を指標としたがん病理診断や集団浸潤を抑えるための新規治療法の開発に貢献することが期待されます。

なお,本研究成果は,2022524日(火)にOncogenesisにオンライン掲載されました。

論文名:The interferon-β/STAT1 axis drives the collective invasion of skin squamous cell carcinoma with sealed intercellular spaces(インターフェロン-β/STAT1経路は細胞間隙が密閉されている皮膚扁平上皮がん細胞の集団浸潤を引き起こす)
URL:https://www.nature.com/articles/s41389-022-00403-9

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本研究成果の概要図