新着情報

ホーム > プレスリリース(研究発表) > 慢性ストレスで自己免疫疾患が増悪する分子機構を発見~難治性疾患である精神神経ループスに対する新規治療開発に期待~(遺伝子病制御研究所 教授 村上正晃)

慢性ストレスで自己免疫疾患が増悪する分子機構を発見~難治性疾患である精神神経ループスに対する新規治療開発に期待~(遺伝子病制御研究所 教授 村上正晃)

2022年7月12日

北海道大学
量子生命科学研究所
生理学研究所

ポイント

●慢性ストレスにより全身性エリテマトーデスにおける精神変容が引き起こされる分子機構を発見。
●慢性ストレスで前頭皮質神経のミクログリアが活性化し、サイトカインを介した神経活性化を誘導。
●中枢神経系におけるサイトカイン制御によって、精神神経ループスへの新規治療開発に期待。

概要

北海道大学遺伝子病制御研究所、量子科学技術研究開発機構量子生命科学研究所、自然科学研究機構生理学研究所の村上正晃教授らの研究グループは、同大学大学院医学研究院免疫・代謝内科学教室(渥美達也教授)と共同研究で、正常マウスでは、単独で病態を誘導しない睡眠不足による慢性ストレスが、全身性エリテマトーデス(SLE)モデルマウスにて、大脳特定神経核のミクログリア活性化を介した神経の異常活性化の影響で異常行動を伴う重症化を引き起こす分子機構を解明しました。

代表的な自己免疫疾患のSLEでは、気分障害などを示す精神神経ループス(NPSLE)と呼ばれる重症の病態があり、その発症の分子機構は不明でした。研究グループは、その病態への慢性ストレスの関与を疑い、SLEモデルマウスを用いて検証しました。

慢性ストレス導入は、正常マウスでは不安を増強しましたが、SLEモデルでは逆に不安を減少させ、NPSLE様の脱抑制様行動を誘導しました。また、内側前頭前皮質で異常に活性化したミクログリアからサイトカインの一種であるインターロイキン(IL-12/23p40が産生され、神経細胞も活性化しました。これらの変化は、IL-12/23p40中和抗体投与で抑制されました。また、健常者や軽症のSLE患者と比べて、NPSLE患者では、モデルマウスと同様に髄液IL-12/23p40濃度が高値であり、前頭前皮質の体積がより小さかったことから、ヒトにおいても同様の発症機構が関与している可能性が示唆されました。これらの結果から、SLEにおける前頭前皮質ミクログリアからの慢性ストレス誘導性のIL-12/23p40産生は、NPSLEの新たな治療標的となる可能性があります。

本研究は日本医療研究開発機構(AMED)ムーンショット型研究開発事業における課題名「病気につながる血管周囲の微小炎症を標的とする量子技術、ニューロモデュレーション医療による未病時治療法の開発」と光・量子飛躍フラッグシッププログラム(課題番号:JPMXS0120330644)の研究費を用いて実施されました。

なお、本研究成果は、日本時間2022711日(月)公開の Annals of the Rheumatic Diseases誌にオンライン掲載されました。

論文名:Pathogenic neuropsychiatric effect of stress-induced microglial interleukin-12/23 axis in systemic lupus erythematosus(全身性エリテマトーデスにおけるストレス誘導性ミクログリア由来インターロイキン-12/23軸による病原性精神神経性効果)
URL:https://ard.bmj.com/content/early/2022/07/06/ard-2022-222566

詳細はこちら