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世界最大規模の氷河湖決壊を宇宙から発見!~南米パタゴニアで起きた氷河湖の決壊洪水を世界に先駆けて衛星データで解明~(低温科学研究所 教授 杉山 慎)

2022年9月1日

ポイント

●2020年4月に南米パタゴニアで発生した氷河湖決壊洪水を人工衛星データから発見。
●湖から流出する河川の流れが移動して谷を削った結果、4か月の間に3.7km3の湖水が流出。
●湖水の流出が周辺の重力場に影響を与えるほどの規模であったことを確認。

概要

北海道大学大学院環境科学院博士後期課程の波多俊太郎氏と同大学低温科学研究所の杉山 慎教授、同大学の日置幸介名誉教授(元理学研究院教授)の研究グループは、人工衛星データ解析から南米チリ・パタゴニアで発生した氷河湖決壊洪水を発見し、その規模とメカニズムを明らかにしました。

人工衛星データを用いて同地域の氷河変動を解析中に、氷河が流れ込む湖としては世界で4番目に大きなグレーベ湖で、20204月に水位が約20メートル急激に低下したことが判明しました。さらなる解析から、同年7月までに3.7 km3の湖水が流出したことが示されました。この氷河湖決壊洪水は、人工衛星によって地球が観測されるようになって以来、世界最大規模のものです。高解像度の人工衛星画像などを駆使して決壊原因を調査したところ、地形の崩壊によって湖から流出する河川の流れが移動し、河床の侵食が進んで排水が起きたことが確認されました。さらに、GRACEと呼ばれる地球重力を測定する人工衛星のデータを解析した結果、排水による重力場の変化を捉えました。氷河湖決壊洪水に伴う質量変化が、GRACE衛星で観測されたのは初めてのことです。

パタゴニアでは急速に氷河が後退して氷河湖が拡大していますが、アクセスが困難で研究が十分に行われていません。研究グループは同地域での長い研究実績を活かして、稀に見る規模の氷河湖決壊を世界に先駆けて発見することに成功しました。この結果は、氷河湖の決壊による災害、氷河の将来変動、重力衛星による地球観測の可能性について、貴重なデータを提供するものです。

本研究成果は、2022826日(金)公開の Communications Earth & Environment誌にオンライン掲載されました。

論文名:Abrupt drainage of Lago Greve, a large proglacial lake in Chilean Patagonia, observed by satellite in 2020(人工衛星によって観測された2020年チリ・パタゴニアの巨大氷河湖Greve湖の突発的な排水)
URL:https://doi.org/10.1038/s43247-022-00531-5

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決壊洪水が起きた南米チリ・パタゴニアのグレーベ湖。黄色は決壊によって減少した湖の面積。赤と水色は氷河変動による湖面積の変化。