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中枢神経系免疫担当細胞の活性化に関わる分子を発見~全身性エリテマトーデスにおける精神神経症状への新規治療薬開発に期待~(医学研究院 助教 河野通仁)

2022年9月14日

北海道大学
札幌医科大学

ポイント

●中枢神経の免疫担当細胞であるミクログリアの活性化に関わる分子を発見。
●サイトカインにより活性化したミクログリアが神経障害を誘導することを解明。
●難治性疾患である精神神経ループス診療の進展に期待。

概要

北海道大学大学院医学研究院の渥美達也教授、河野通仁助教らの研究グループは、札幌医科大学医学部免疫・リウマチ内科学の神田真聡講師と共同で、全身性エリテマトーデス(SLE)モデルマウスにおいて、中枢神経系の免疫担当細胞であるミクログリアの活性化により神経細胞が障害され、認知機能障害を引き起こす分子機構を解明しました。

多彩な臓器障害を呈する自己免疫疾患であるSLEは、患者の20-40%に気分障害や認知機能障害などの精神神経ループス(NPSLE)を合併します。NPSLESLEの中でも最も重症な病態ですが、その病態については未だ不明でした。研究グループはミクログリアに着目し、SLEモデルマウスを用いてその病態のメカニズムを検証しました。

SLEモデルマウスでは正常マウスと比較して空間作業記憶、視覚的認知記憶の低下を認め、脳組織ではミクログリアの異常活性化と神経細胞障害が認められました。培養したミクログリアをサイトカインで刺激したところSLEモデルマウスのミクログリアと同様の活性化を認め、これらのミクログリアの活性化にはIκBキナーゼイプシロン(IKBKE)が関与していました。IKBKE阻害薬の投与によりミクログリアの活性化は抑制され、モデルマウスの記憶障害も改善しました。これらの結果から、IKBKEを標的としたミクログリア活性化の抑制がNPSLEの新規治療となる可能性があります。

なお、本研究成果は、2022913日(火)公開のArthritis & Rheumatology誌に掲載されました。

論文名:Inhibitor of nuclear factor kappa-B kinase epsilon contributes to neuropsychiatric manifestations in lupus-prone mice through microglial activation(IKBKEはミクログリアの活性化を介してループスモデルマウスの精神神経症状に関与する)
URL:https://doi.org/10.1002/art.42352

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SLEモデルマウスにおけるミクログリアの活性化を介した精神神経症状の発症機序。MRL/lprのミクログリアでは、サイトカイン刺激によりIKBKEが亢進し、NFκBやIRFの核内移行による遺伝子転写の促進及び解糖系の促進により活性化していた。活性化したミクログリアにより生じた神経障害がモデルマウスの精神神経症状を引き起こすことが推測される。