新着情報

ホーム > プレスリリース(研究発表) > 「海のユニコーン」イッカクの行動の謎に迫る~行動パターンをカオス理論で解明。北極域での絶滅危惧種の保護対策に活用へ~(北極域研究センター 准教授 エヴゲニ ポドリスキ)

「海のユニコーン」イッカクの行動の謎に迫る~行動パターンをカオス理論で解明。北極域での絶滅危惧種の保護対策に活用へ~(北極域研究センター 准教授 エヴゲニ ポドリスキ)

2022年9月26日

ポイント

●グリーンランド天然資源研究所と共同で、カオス理論を使い、謎に包まれたイッカクの行動を解明。
●衛星追跡調査の結果、昼夜の行動パターンの違いや、海氷の有無の影響を受けていることを発見。
●準絶滅危惧種に指定されるイッカクなど、北極の動物保護対策に貢献。

概要

北海道大学北極域研究センターのエヴゲニ ポドリスキ准教授らは、電子タグを装着したイッカクの行動を長期間にわたってモニタリングし、そのデータをカオス理論の数理技術を使って分析しました。その結果、潜水や海面での休息など、昼間の行動パターンが初めて明らかにされました。

イッカクは北極の海に生息する鯨類ですが、その変則的な行動を分析する方法は、センサーなどの技術が発達した現在でも乏しく、生息の実態はまだ不明な点が多いのが実情です。また、長期モニタリングのデータに基づいた研究例も、ごくわずかです。

ポドリスキ准教授は、グリーンランド天然資源研究所のMads Peter Heide-Jørgensen教授と共同で、極めて複雑だとされるイッカクの行動パターンを解明する手法を確立しました。この手法で83日間にわたるモニタリングを行い、得られたデータを解析した結果、特徴的な潜水スタイルや、昼間に海面近くで休息する行動が見られました。当初、これらは変則的な行動と考えられましたが、詳細なデータ分析から、通常のパターンであることが判明しました。

北極域は、温暖化や海氷減少など、深刻な環境変化の影響を強く受けてきました。イッカクもその例外ではなく、準絶滅危惧種に指定されています。本研究は、イッカクを含む、北極圏に生息する動物の保護をめぐる課題を浮き彫りにし、今後の対策の一助になると期待されています。

なお、本研究の成果は2022922(木)公開のPLOS Computational Biology誌にオンライン掲載されました。

論文名:Strange attractor of a narwhal (Monodon monoceros)
URL:https://doi.org/10.1371/journal.pcbi.1010432

詳細はこちら


2019年9月にグリーンランド沖で捉えられたオスのイッカクの成獣(Carsten Egevang氏提供)(左)、抽象的相空間で観察されたイッカクのさまざまな潜水のスタイル(エヴゲニ・A・ポドリスキ、Mads Peter Heide-Jørgensen、PLOS Computational Biology,米国東部時間2022年9月22日)(右)