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ラッサウイルスの増殖を抑える化合物の発見~広域的なウイルス出血熱の治療薬開発に期待~(人獣共通感染症国際共同研究所 教授 澤 洋文、准教授 大場靖子、客員教授 佐藤彰彦、客員研究員 鳥羽晋輔)

2022年9月22日

ポイント

●ヒトに重篤な症状を示す新興感染症ウイルスを用いた化合物スクリーニング系を構築。
●ラッサウイルスを含む複数の出血熱ウイルスに対して強力な抗ウイルス活性を示す阻害剤を同定。
●ラッサ熱、南米出血熱等の治療薬のない病気に対する広域的抗ウイルス治療薬の開発に期待。

概要

北海道大学人獣共通感染症国際共同研究所の澤 洋文教授、大場靖子准教授、佐藤彰彦客員教授、鳥羽晋輔客員研究員らの研究グループは、インフルエンザウイルス阻害剤ライブラリーの中から、ブニヤウイルスに対して強力な抗ウイルス活性を有する化合物を発見しました。

ラッサウイルス(LASV)を含む多くの出血熱ウイルスは、動物からヒトに感染する人獣共通感染症であり、近年、局所的なヒトでの大流行を繰り返しています。本研究で着目したLASVについては、これまでにワクチン及び治療薬の開発研究が遂行されてきたにもかかわらず、未だ有効な治療法は確立されていません。

今回、研究グループは多種多様な病原性ウイルスに対する化合物スクリーニング系を構築し、塩野義製薬所有の化合物ライブラリーを用いた、出血熱ウイルスを含めた広域なウイルスに対して抗ウイルス活性を有する化合物のスクリーニングを実施しました。その結果、インフルエンザウイルスのキャップ依存性エンドヌクレアーゼ(CEN*3阻害薬の中から、LASVを含む複数のウイルスに対して強力な抗ウイルス活性を示す化合物を同定することができました。ブニヤウイルスは、インフルエンザウイルスと同様にCENを有しており、薬剤escapeウイルスの解析から、本化合物はブニヤウイルスのCEN活性中心に結合することで酵素活性を阻害することが示唆されました。そしてウイルス感染実験の結果から、本化合物は細胞内ウイルスRNA複製を阻害することで、強力なウイルス増殖阻害活性を示すことを見出しました。ブニヤウイルス感染マウスモデルを用いた実験により、本化合物が感染動物に対して症状改善(致死抑制効果)を示すことが確認されました。

LASVは感染症法で1類に該当するウイルスであることから、BSL4施設を持つ米国テキサス大学との共同研究を実施し、本化合物がLASVに対して抗ウイルス効果を有することも確認できました。

本研究において、ヒトに重篤な疾患を引き起こすLASVを含むブニヤウイルス属の幅広いウイルスに対して、本化合物が強力な抗ウイルス活性を有することを見出しました。これらのウイルスに対する有効かつ安全な治療薬は存在せず、本研究成果によって新たな治療薬の開発が進むことが期待されます。

なお、本研究成果は2022829日(月)公開のProceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(PNAS)誌にオンライン掲載されました。

論文名:Identification of cap-dependent endonuclease inhibitors with broad-spectrum activity against bunyaviruses
URL:https://doi.org/10.1073/pnas.2206104119

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図1 化合物A-Dの化学構造(A)、MTT法による化合物A-Dの抗LCMV活性と抗JUNV活性(B、C)、RT-qPCR法による化合物A-Dの抗LCMV活性と抗JUNV活性(D、E)