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IL-34がトリプルネガティブ乳がん腫瘍に及ぼす影響を解明~新たながん個別化治療コンセプトの確立に期待~(遺伝子病制御研究所 教授 清野研一郎)

2022年10月20日

北海道大学
大阪労災病院

ポイント

●トリプルネガティブ乳がんにおいてIL-34が強い免疫抑制と抗がん剤抵抗性をもたらすことを発見。
●IL-34を標的とした治療が、TNBC患者の予後を改善する可能性を示唆。
●IL-34を標的としたトリプルネガティブ乳がんの新規治療コンセプトの確立に期待。

概要

北海道大学大学院医学院博士課程(特別研究員)の梶原ナビール氏、同大学遺伝子病制御研究所病態研究部門免疫生物分野の清野研一郎教授らの研究グループは、予後不良乳がんとして知られるトリプルネガティブ乳がん(TNBC)において、がん細胞が分泌するインターロイキン-34IL-34)そのものが予後不良に寄与することを以前に明らかにしており(関連するプレスリリース)、今回新たに、同大学大学院医学院組織細胞学教室、同大学病院乳腺外科、大阪労災病院乳腺外科、同大学医学部分子生物学教室との共同研究により、そのメカニズムの部分を解明しました。

TNBCは乳がん全体の約20%を占め、3年以内の再発率が非常に高く、再発後の生存期間が他のタイプの乳がんに比べ短い乳がんです。また、乳がんの治療で一般的に用いられるホルモン療法や分子標的薬のハーセプチン療法の効果がなく、効果が期待できる薬剤が抗がん剤のみに限られます。そのため、治療に難渋するケースが多く、抗がん剤による副作用に苦しむ患者が多いのが現状です。

本研究では、TNBCの腫瘍組織においてIL-34が強力な免疫抑制と抗がん剤抵抗性を誘導することを発見しました。また、実験用マウスや患者から採取したTNBC腫瘍組織を使った実験により、IL-34の遮断がそれらを解除し、IL-34阻害薬と抗がん剤を組み合わせることで、がん細胞の成長を大幅に遅延させることを明らかにしました。

本結果は、TNBCの予後不良や治療抵抗性とIL-34の関係を示すものであり、IL-34やそれにより誘導される免疫抑制細胞を標的とした新規治療コンセプトの確立に繋がるものと期待されます。

なお、本研究成果は、2022914日(水)公開のCancer Immunology, Immunotherapy誌にオンライン掲載されました。

論文名:Tumor-derived interleukin-34 creates an immunosuppressive and chemoresistant tumor microenvironment by modulating myeloid-derived suppressor cells in triple-negative breast cancer(腫瘍由来インターロイキン-34はトリプルネガティブ乳がんにおいて骨髄由来抑制細胞を調節することで免疫抑制性及び化学療法抵抗性の腫瘍環境を構築する)
URL:https://doi.org/10.1007/s00262-022-03293-3

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がん細胞から産生されるIL-34の働き。
がん細胞由来のIL-34は、腫瘍形成、血管新生、浸潤や転移を促進する。また、腫瘍内の免疫を抑制する免疫抑制性マクロファージの生成・増殖にも関係する。