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野生動物でのワクチンの効果の評価が可能に~ワクチン散布による豚熱などの野生動物での疾病の制御に期待~(人獣共通感染症国際共同研究所 准教授 大森亮介)

2022年10月7日

北海道大学
酪農学園大学

ポイント

●野生動物に対するワクチンの効果の評価手法を開発。
●イノシシで流行する豚熱に適用し、経口ワクチン散布の効果を推定。
●野生動物が関与する様々な感染症に使用されるワクチン散布の評価が可能に。

概要

北海道大学人獣共通感染症国際共同研究所の大森亮介准教授、酪農学園大学獣医学群獣医学類の松山亮太助教、農業・食品産業技術総合研究機構 動物衛生研究部門の山本健久博士と早山陽子博士は、野生動物におけるワクチンによる免疫効果を測定するための分析手法を開発しました。

野生動物で流行する感染症を制御するための対策の一つとして、経口ワクチンの散布が実施されています。経口ワクチンによる効果を適切に評価することは、散布するワクチンの量の目標値を決める上で不可欠です。しかし、野生動物の個体数や移動についてのデータは不十分であることが多く、また、野生動物のワクチンの摂食状況の把握が難しいこと、自然感染による抗体獲得とワクチンによる抗体獲得の区別ができないことから、ワクチンの効果を評価することは困難でした。

そこで本研究では、野生動物の個体数と移動やワクチンの摂食歴に関するデータがない状況でも経口ワクチン散布の効果を測定できるよう、野生イノシシの検査で得られた、感染個体の割合、免疫保持個体の割合と、経口ワクチンの散布についての時系列データを利用した測定手法を開発しました。この手法を用いて、日本でイノシシを対象に散布されている豚熱ワクチンの効果を推定したところ、20193月から20198月までに岐阜県内で実施された4回のワクチン散布によって免疫を獲得したイノシシは、初回のワクチン散布時に生息していたと考えられる個体数の12.1%(95%信頼区間;7.8-16.5%)であったと推定されました。野生イノシシでの豚熱の感染状況を改善するためには、地域における野生イノシシの免疫獲得割合が一定の程度に達する必要があると考えられており、今回、感染による免疫獲得に加え、経口ワクチンによる免疫獲得により、観測期間における免疫個体の割合は最終的におよそ70%に達していたと推定されました。国内で実施された豚熱の経口ワクチンの効果が定量的に確認されたのは初めてであり、今後、この手法で推定されたワクチン散布の効果を踏まえた散布方法の検討や散布後の効果の評価が可能になると考えられます。また、本研究で開発された推定手法は、野生動物で流行する様々の感染症のワクチン散布の効果推定への応用が期待されます。

なお、本研究成果は、2022106日(木)公開のPLOS Computational Biology誌に掲載されました。

論文名:Measuring impact of vaccination among wildlife: the case of bait vaccine campaigns for classical swine fever epidemic among wild boar in Japan(野生動物へのワクチン接種の効果の測定:日本の野生イノシシにおける豚熱流行に対する経口ワクチン散布についての事例研究)
URL:https://doi.org/10.1371/journal.pcbi.1010510

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本研究で開発した手法で推定された岐阜県のイノシシにおける免疫保持個体の割合の推移(実線:推定値、黒丸:観測値)