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卵の値段はいくらになるの?~アニマルウェルフェアに配慮した飼養方式の導入が生産者と消費者へ与える多面的な影響を解明~(農学研究院 准教授 清水池義治)

2022年11月2日

北海道大学
株式会社ハイテム

ポイント

●アニマルウェルフェア(AW)への配慮は世界的な潮流であり日本も国際基準に準拠し対応している。
●採卵鶏生産システムをAWに配慮することにより生産コスト・小売価格は高くなると推計された。
●農家の経済的負担、労働人数・時間の増加、農場面積の確保も導入課題として示された。

概要

北海道大学大学院農学研究院 加藤博美研究員(現 国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構)、清水池義治准教授、北海道大学大学院農学院修士課程2年吉松 良氏、博士後期課程2年今井遼太郎氏、株式会社ハイテムの安田勝彦氏、安田幸太郎氏、今村芳敬氏らの研究グループは、採卵鶏生産システムにアニマルウェルフェア(AW)を導入した場合の影響を多面的に明らかにしました。

AWに配慮した畜産業を行うことは、欧州諸国において農業生産の社会的責任および豊かな食生活への貢献として不可欠であるとされ、罰則を伴った規制が敷かれています。一方でAWに配慮した生産システムの導入には家畜の生産性低下、農家の経済的負担、従事者の労働時間の増加および消費者のAWへの理解促進など多くの懸念事項があります。日本においてAWに配慮した生産システムを積極的に導入していくためには、その影響を把握し、課題を抽出し解決を図ることが必要です。そこで本研究では、仮想的な採卵鶏生産システム(約11万羽飼養)4施設6タイプを設定し、AWに配慮した生産システムの導入がもたらす多面的な影響を検討しました。

結果として、生産性(卵の個数)は、コンベンショナルケージ8段(CC8)・12段(CC12)を基準としてエンリッチドケージ8段(EC8)・12段(EC12):26%、エイビアリー(AV):29%、平飼い(BR):32%の減少がみられました。小売価格(1パック10個入)は、CC812247円、EC8・12281円、AV373円、BR485円と推計され、消費者の経済的負担金額を明らかにすることができました。加えて、本研究では新たに、1羽あたりに必要な農場面積を可視化し、飼養要求農場面積として提示することができました(CC8 = 1,133; CC12 = 1,037; EC8 = 1,235; EC12 = 1,169; AV = 1,353; BR =5,987[ cm2 //農場]。飼養要求農場面積は、糞尿処理施設、卵収集施設および緩衝地帯など生産に不可欠な付帯施設面積をも含む面積を表しています。この結果に基づくと日本の採卵鶏をすべて平飼いに転換した場合、約8,500haの農場面積が必要となります。

持続可能な生産システムを構築するために、AWを向上させた卵の需要がいずれ高まることが予測されます。日本における"科学的な知見に基づいたAWに配慮した飼養システムの構築"は喫緊の課題ではありますが、基礎となるエビデンスは十分ではありません。本研究は、その1つに貢献し、日本の採卵鶏生産の将来を考える上で重要な示唆を与えるものとなっています。

なお、本研究成果は、20221020日(木)公開のPoultry Science誌に掲載されました。

論文名:Estimating production costs and retail prices in different poultry housing systems: conventional, enriched cage, aviary, and barn in Japan.  (日本における異なる鶏舎システム(従来型ケージ、エンリッチドケージ、エイビアリー、平飼い)の生産コストと小売価格の推定)
URL:https://doi.org/10.1016/j.psj.2022.102194

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