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光電子移動触媒反応の触媒サイクル全貌を解明~交差シームの系統的探索を用いて反応メカニズムを計算~(創成研究機構化学反応創成研究拠点/理学研究院 助教 原渕 祐、教授 前田 理)

2022年11月11日

ポイント

●光電子移動触媒を用いたラジカル反応は、熱反応では困難な化学変換を実現する方法として注目。
●複数の反応経路ネットワークをつなぎ合わせることで反応機構を明らかにする理論計算手法を開発。
●イリジウム錯体が触媒するKnowlesの分子内ヒドロアミノ化反応の触媒サイクル全貌を明らかに。

概要

北海道大学創成研究機構化学反応創成研究拠点(WPI-ICReDD)、及び同大学院理学研究院の原渕 祐助教、及び前田 理教授らの研究グループは、系統的な反応経路の探索により、Knowlesの光電子移動触媒による分子内ヒドロアミノ化反応の触媒サイクルの全貌を明らかにしました。

光電子移動触媒を用いたラジカル反応は、通常の熱反応では困難な化学変換を実現する方法として注目されており、現在も新規化学反応の開発が進められています。一方で、このような化学反応では基質分子の結合組み換えを伴う反応過程と触媒・基質間の電子移動過程が競合するため、その反応メカニズムの理解は容易ではありません。これに対して、量子化学計算に基づく解析は、反応経路に沿った原子レベルでの描像を得ることができるため、その応用が期待されています。しかし、遷移金属を含む光電子移動触媒分子は一般に80以上の原子を含むため、計算コストの観点からその適用は容易ではありませんでした。

本研究では、基質分子の電子エネルギーを触媒の酸化還元電位に基づき補正することで触媒基質間の電子授受と基質の反応過程を簡便に記述し、反応過程を追跡する手法を開発しました。この手法を用いることにより、これまで計算すら容易ではなかった光電子移動触媒による電子移動を伴う反応過程に対し、人工力誘起反応法(AFIR法)に基づく反応経路の系統的探索が可能になりました。さらに、本研究では、開発した手法をKnowlesらによって報告された光電子移動触媒を用いた分子内ヒドロアミノ化反応に適用し、エネルギー的に有利な反応経路を突き止めました。計算の結果より、この反応では、電子移動過程とプロトン移動過程が協奏的に進行することが明らかになりました。また、生成物へと至る電子移動の経路と反応物に戻る電子移動の経路の相対的重要性が触媒の酸化還元電位によって変化し、このことが反応収率に影響を与える可能性を示しました。本手法は、光電子移動触媒を用いた新規反応に対する理論的スクリーニングへの展開が期待されます。

本研究成果は、2022116日(日)公開のAngewandte Chemie International Edition誌のオンライン版にArticleとして掲載されました。

論文名:Oxidation and Reduction Pathways in the Knowles Hydroamination via a Photoredox-Catalyzed Radical Reaction(光電子移動触媒により進行するノールズヒドロアミノ化反応の酸化還元経路の解明)
URL:https://doi.org/10.1002/anie.202211936

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