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道南噴火湾にて低次生物サイズ組成の季節的な解析に成功~春季植物プランクトンブルーム生産を高次生物に急速に輸送するメカニズムを解明~(水産科学研究院 准教授 山口 篤)

2022年11月30日

ポイント

●噴火湾で採取した試料から、動物プランクトンにおけるサイズ組成の年間季節変化を評価。
●サイズを問わず全ての動物プランクトンで2-5月は生物量が多く、6月-翌年の1月では減少。
●春季植物プランクトンブルーム生産を高次生物に渡す分類群として、尾虫類が重要なことが判明。

概要

北海道大学大学院水産科学研究院の山口 篤准教授、松野孝平助教、大西広二助教、大木淳之准教授、高津哲也教授らの研究グループは、北海道噴火湾において周年に渡り採集された動物プランクトン試料を画像解析することで、動物プランクトンサイズ組成の季節変化を明らかにしました。

海洋の食物連鎖の生物生産は、植物プランクトンから始まり、動物プランクトンを介して小魚や大型魚のような高次生物に輸送されます。そのため、動物プランクトンの輸送量や輸送効率を評価する上でサイズ組成は重要なパラメータとなりますが、従来行われていた顕微鏡観察ではサイズを測定するのに多大な労力と時間がかかるため、知見は乏しい状態でした。そこで研究グループは画像イメージング機器(ZooScan)を用いた画像解析を行い、噴火湾で年間を通じたサイズ組成の季節変化を明らかにしました。その結果、噴火湾における動物プランクトンサイズ組成は季節的に大きく2つに分けられ、2-5月には生物量は小型から大型まで全てのサイズで多かったのに対し、6-翌年の1月には全てのサイズで少ないことが明らかになりました。また、春季植物プランクトンブルームの後には大型な動物プランクトンの尾虫類(浮遊性のホヤの仲間)が優占し、植物プランクトンの生産を魚類に速やかに受け渡す経路が発達することが明らかになりました。

本研究の成果は、北海道近海での低次生物生産の高次生物への輸送過程の季節変化を、動物プランクトンのサイズ組成から明らかにした、水産学や海洋学における重要な知見となります。

なお、本研究成果は、20221130日(水)公開のPlankton and Benthos Research誌に掲載されました。

論文名:Seasonal changes in taxonomic, size composition, and Normalised Biomass Size Spectra (NBSS) of mesozooplankton communities in the Funka Bay, southwestern Hokkaido: Insights from ZooScan analysis
URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/pbr/17/4/17_P170404/_article/-char/en

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上:動物プランクトンの体の大きさ(サイズ、横軸)と体積(生物量、縦軸)の関係。両者の回帰式は、NBSSと呼ばれ、傾きと切片は、生物生産の転送効率の指標になる。
下:2018-2019年の噴火湾におけるNBSSの傾きと切片の季節変化。2-5月にはNBSSの傾きが極めて緩やかで切片も高いことから、全てのプランクトンサイズにおいて生物量が多く、魚類等の高次生物への転送効率が高いことがわかる。