2023年1月25日
ポイント
●未知の海域である西部ベーリング海と東カムチャツカ海流上流の観測に成功。
●微小動物プランクトンの捕食を含めたプランクトン生態系の変動要因を解明。
●気候変動に伴う北太平洋亜寒帯全体のプランクトン生態系変化の将来予測の進展に期待。
概要
北海道大学低温科学研究所附属環オホーツク観測研究センターの西岡 純教授、同大学大学院地球環境科学研究院の鈴木光次教授、香港科学技術大学のカイリン リュウ研究員及びホンビン リュウ教授らの研究グループは、親潮域上流の東カムチャツカ海流域から西部ベーリング海の栄養物質循環及びプランクトン生態系の構造と制御機構を、極東ロシア海洋気象学研究所との国際共同観測から世界で初めて明らかにしました。
これまで、日本の水産資源の多くを支える北太平洋亜寒帯域は、オホーツク海の影響を強く受けていることが知られていました。これに加え、北太平洋亜寒帯域の水塊形成は、東カムチャツカ海流とさらに上流に位置する西部ベーリング海の影響を受けていますが、これらの海域は観測データの圧倒的不足のため、栄養物質循環とプランクトン生態系の構造や制御機構は不明のままでした。
本研究では、東カムチャツカ海流とその上流に位置する西部ベーリング海及びアナディル湾の観測を実施し、これら未知の海域の栄養物質循環と、植物プランクトンの成長速度と微小動物プランクトンの捕食速度の空間パターンを明らかにしました。プランクトン生態系構造のデータを解析した結果、カムチャツカ半島沖から西部ベーリング海の植物プランクトンの増殖は、海洋循環で供給される窒素や河川などを通じて供給される鉄分などの栄養物質の利用可能性と、水温の影響を受ける微小動物プランクトンの捕食の有無によって決定されることを見出しました。これらの知見から、東カムチャツカ海流と西部ベーリング海を含む北太平洋亜寒帯域では、海洋温暖化に対するプランクトンの増殖応答が海水中の栄養条件の違いにより異なることが予想されました。
なお、本研究成果は、2023年1月16日(月)公開のLimnology and Oceanography誌にオンライン掲載されました。
論文名:Role of nutrients and temperature in shaping distinct summer phytoplankton and microzooplankton population dynamics in the western North Pacific and Bering Sea(北太平洋西部及びベーリング海における夏季の植物プランクトン及び微小動物プランクトン動態を制御する栄養塩と水温の役割)
URL:https://doi.org/10.1002/lno.12300
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