2023年1月19日
ポイント
●シアニン色素の光異性化状態がRNAの立体構造変化に応じて変化することを実証。
●光異性化を用いてRNAのグアニン四重鎖構造を生細胞内で検出する方法を確立。
●病態に関連したRNA立体構造変化の生細胞内検出へ発展させることに期待。
概要
北海道大学大学院先端生命科学研究院の北村 朗講師らの研究グループは、シアニン蛍光色素の光異性化状態の変化を検出できる手法を用いて、生細胞内でグアニン四重鎖構造というRNAの特殊立体構造を識別することに成功しました。本成果は、スウェーデン王立工科大学応用物理学部Jerker Widengren教授らとの国際共同研究によるものです。
シアニン蛍光色素は、光励起に依存して分子構造の異性化(光異性化)を起こし、動的に消光する(蛍光明滅する)ことが知られている蛍光色素です。この蛍光明滅の速度と蛍光を発する状態の割合から生きた細胞内における生体分子の構造変化検出に使えないかと着想しました。蛍光明滅状態を短時間かつ定量的に測定できる手法であるTransient state monitoring(TRAST法)を用いて、RNAの立体構造の一つであるグアニン四重鎖(G-quadruplex; 以下Gq)の生細胞内検出に成功しました。まず溶液における検証から、RNAの5'末端に標識した赤外蛍光シアニン色素であるAlexa Fluor 647の光異性化状態は、Gq構造となると蛍光明滅の速度が遅くなることに加え、蛍光を発する分子の割合が非Gq構造状態よりも増加することが分かりました。さらに生細胞内においてRNA分子の運動性が溶液中よりも低下した状態であっても、TRAST法を用いることで細胞内へ導入した蛍光標識RNAのGq構造を読み出すことに成功しました。
RNAの中に形成されたGq構造は、遺伝子の転写、タンパク質への翻訳を制御するなど種々の生理的機能の調節に関与すると共に、筋萎縮性側索硬化症(ALS)やがんなどの疾患との関与が示唆されるなど、様々な生理恒常性維持や疾患の原因として着目されており、その構造状態を生きた細胞の中で計測可能な検出手法の確立は世界的にもインパクトの大きなものです。
なお、本研究成果は、2023年1月18日(水)公開のNucleic Acids Research誌にオンライン掲載されました。
論文名:Trans-cis isomerization kinetics of cyanine dyes reports on the folding states of exogeneous RNA G-quadruplexes in live cells(シアニン色素のトランス-シス異性化速度論を用いた生細胞内外来RNAのグアニン四重鎖フォールディング状態解析)
URL:https://doi.org/10.1093/nar/gkac1255
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シアニン色素(図中★)で標識されたGGGGCC四回繰り返しRNAの配列と構造。(左)ヘアピン構造。(右)カリウムイオンの存在下で形成されるグアニン四重鎖構造。蛍光明滅の頻度を各図下のマゼンタ色の線で示す。