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北海道大学が目指すリカレント教育~担当責任者に聞く(1)〜

 20224月、北海道大学 大学院教育推進機構に、社会人に学び直しの機会を提供する教育組織としてリカレント教育推進部が新たに設立されました。本学の強みや特色を活かした、大学の知と産業界や自治体のニーズをマッチさせた多様な学習プログラムの企画・運営を担います。20233月にはキックオフシンポジウム「学びの道は北へ、大海へ〜北大が目指すリカレント教育〜」を開催します。シンポジウムに先立ち、高等教育機関である大学が社会人に教育機会を開いていくこと、そして、本学が担うべきリカレント教育のあり方について、担当責任者の声を2回にわたってお届けします。

 1回は、大学院教育推進機構の機構長である山本文彦 理事・副学長です。


(山本文彦 北海道大学理事・副学長)

  

北海道大学の提供するリカレント教育プログラム

 リカレント教育推進部は、2023年度より本格的に大学院教育レベルのリカレント教育を運営していきます。具体的には、新規に企業や自治体と連携したプログラムを立ち上げます。さらに、本学のリカレントプログラムの窓口になるウェブサイトの設置を計画しています。サイトではすでに本学で個別に実施されている市民に開いた講座を含め、全体を一覧できるようにし、学び直したい方が自分のニーズに合った学習プログラムを容易に選べるようにしたいと考えています。とりわけ本学のリカレント教育プログラムでは、社会人と学生が共に学ぶ「共修」の実践を念頭に置いています。社会人と学生それぞれが持つ経験と新しい発想を結びつけることで、イノベーションの創出や実践的なキャリア教育に発展させる構想を持っています。
 また、これまで北海道新聞社との包括連携協定のもと(株)道新文化センターと行なってきた「北大道新アカデミー」をリデザインすることで、本学教員による最先端の研究成果や地域の課題への対応するための研究知見を、世代を超えて広く人びとに提供する場とします。

 

歴史も示す、大学本来の姿

 こういったリカレント教育は、高校卒業後の18歳から20代前半の学生を入学させ、4年あるいは6年教育して社会に送り出すという大学のイメージと違っていると思う人も多いかもしれません。しかし私の考え方は少し違います。大学はむしろ社会に出て働いている方や、お仕事をリタイアした方も含めた、多様な年齢層に対する教育を担っていくべきです。
 私はヨーロッパ中世史を専門にしている歴史家です。大学の誕生を歴史的にふりかえってみましょう。12世紀の西ヨーロッパでは、イスラーム世界が最先端の文明を誇っていました。ギリシアの哲学やヘレニズム文化の優れた内容は、直接ヨーロッパに伝えられたわけではなく、東ローマ帝国を経て、アラビア語に翻訳されてイスラーム世界に引き継がれたのです。
 当時のヨーロッパの知識人たちは、イベリア半島やシチリア島に行くとイスラーム世界の知識を学べることに気づき始めます。彼らの先駆者たちは、これらの地に単身渡り、苦労してアラビア語を習得して、文献をラテン語に翻訳していきました。いわゆる「大翻訳時代」がおとずれます。各地で学んだ人たちがヨーロッパに戻ると、新しい世界や文化を知りたいと考える人たちが、教師たるその人たちの元に集まり「知の契約」としてお金を払って、話を聞いたりディスカッションしたりするようになります。あちこちに増えてきたこのような場を体系化する中で生まれたのが大学です。


(14世紀ごろの大学) 〈ウィキメディア・コモンズ〉

 12世紀のヨーロッパは経済発展が始まり、社会が大きく変わる時期でした。当時の大学に集った、新しい時代を築き上げていこうと思っている人たちは、知識を学ぶだけではなく、その内容を発展させ新しい知を創造していきました。歴史的な視点から振り返れば、大学は学びたい気持ちを持つあらゆる世代の人たちに知識を提供することはもちろんのこと、研究の成果を広く発信し、意欲ある人と共にこれからの社会を一緒に築き上げていく場であるべきだと私は思います。

 

リカレント教育の体系化・組織化を目指す

 今、社会人の学び直しであるリカレント教育や、リスキリングの重要性が各所で指摘されています。このタイミングで、大学が本来果たすべき社会人の方への教育を体系的に作り上げていきたい。これが今回、本学にリカレント教育推進部を立ち上げた背景です。大学には、学部の1年生向けの教養教育から順次、学習内容を積み上げていく、体系化されたプログラムがあります。対して、社会人向けのリカレント教育については、散発的なプログラムはありますが、体系化・組織化したプログラムを提供するには至っていないと思います。この試みに本学は取り組んでいく必要があります。


(組織化・体系化したリカレント教育プログラムの重要性が指摘されました)

 この際、3つの点を押さえる必要があると考えます。第1に、本学は北海道の中にある唯一の総合大学です。そのため、北海道という地域との関係は重要です。他の道内にある大学との違いを意識した上で、本学ならではの北海道の課題解決に貢献するようなリカレント教育プログラムを考える必要があります。
 第2に、本学は国立大学としては日本で一番多い12の学部を有した研究大学院大学です。さまざまな分野の研究者が集まっています。この強みを活かし、本学の最先端の研究成果を、これからの未来社会を構想する企業と連携させていくようなプログラムを企画しなければならないと思います。
 第3に、北海道は人を惹きつける魅力を持った土地です。北海道で学びたい、北海道に貢献したいという人も多くいます。北海道に憧れやテーマを持った人たちに向けて提供するプログラムもあると思います。


(インタビューは3月に行うシンポジウムの打ち合わせも兼ねて行われました。タイトルの「学びの道は北へ、大海へ」は北海道大学のアナグラムになっています)

 このような企業や地域や個人に向けたコンテンツをセットにすることで、体系化されたリカレント教育プログラムを作っていけるのではないかと考えています。ただし、今はオンラインによる講義が普及していて、たくさんの優秀なコンテンツが無料で見られる状況になっています。そことの差別化が必要になります。オンラインによるコンテンツが優れている部分もある一方で、対面で行ったほうが良いプログラムもあると思います。オンラインと対面の講義をうまく組み合わせて、北海道大学でなければ企画できない、北海道大学だからこそ学べるリカレント教育を追求して、日本中、世界中の方が参加してもらえるようにしたいですね。


(もし自身がリカレント教育を受けるとしたら、データサイエンスやアラビア語などの外国語を学んでみたいと語る山本理事・副学長)

 次回は、寳金清博総長のインタビューを掲載します。