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北極海の深海性動物プランクトン5種の成長様式を解明~餌の乏しい極限環境下において同じ科の5種が共存するメカニズムが判明~(水産科学研究院 准教授 山口 篤)

2023年2月24日

ポイント

●北極海の深海動物プランクトン相に優占する同科カイアシ類5種の発育に伴う体重を測定解析。
●同科内で表層に分布する種ほど、同じ体長における体重は重く、餌供給量の水深差の反映と推察。
●脱皮間成長には共通する雌雄間差があり、雌は成体で長い寿命を持ち、産卵数を増すためと想定。

概要

北海道大学大学院水産科学研究院の山口 篤准教授、米国のウッズホール海洋研究所とロード・アイランド大学の研究グループは、北極海の氷上定点で時系列採集されたプランクトンネット試料を解析し、深海性の粒子食性動物プランクトンのアエティデウス科カイアシ類5種について、全ての発育段階の体長と体重を測定し、脱皮に伴う成長様式を明らかにしました。

本研究で扱った5種全てについて体長-体重関係式が確立され、次の3つが明らかになりました。①浅い層に分布する種ほど、同じ体長における体重が重いということ。これは浅い層ほど餌が多いことが反映された結果と考えられます。②体内の有機物含有量が、若い発育段階ほど高いということ。これは遊泳力が乏しく餌をとる能力の低い、若い発育段階において、飢餓に対する耐性を高める機能があると想定されます。③成長様式には雌雄差があるということ。発育段階の成長が最も大きくなるのは、雌が成体時、雄は成体の一つ前でした。これは雌の寿命が成体で最も長く、雄の寿命は成体で短いことが反映されていると考えられます。

本研究の成果は、北極海の深海という餌の乏しい極限環境において、同じ科の動物プランクトン5種が共存するために、その成長様式を種間や種内、雌雄で変えていることを明らかにしたものです。今後の極域生物海洋学における重要な知見となることが期待されます。

なお、本研究成果は、2023222日(水)にCrustaceana誌でオンライン掲載されました。

論文名:Body length, dry and ash-free dry weights, and developmental changes at each copepodid stage in five sympatric mesopelagic aetideid copepods in the western Arctic Ocean(西部北極海における中層性アエティデウス 科カイアシ類の同所的な5種の体長、乾燥重量及び乾燥有機物重量の発育に伴う変化)
URL:https://brill.com/view/journals/cr/96/2/article-p113_2.xml

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北極海の深海より採集された、アエティデウス科カイアシ類(左4枚)。カイアシ類は甲殻類で、C1~C6期まで5回の脱皮をして親(成体)になる(右)。