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EUV露光の高出力化をもたらす光源プラズマ流観測に成功~「流れを操り、光を作る。」新しい概念に基づく半導体露光用EUVプラズマ光源の開発に期待~(工学研究院 准教授 富田健太郎)

2023年2月6日

ポイント

●半導体露光用EUV光源を構成するプラズマの流れの観測に世界で初めて成功。
●これまで観測が困難であったプラズマの流れとEUV発光強度の関係を解明。
●流れの制御が可能となることで、より明るくクリーンなEUV光源の開発が期待される。

概要

北海道大学大学院工学研究院の富田健太郎准教授らの研究グループは、大阪大学レーザー科学研究所の西原功修博士(大阪大学名誉教授)、米国パデュー大学の砂原 淳博士、ギガフォトン株式会社の開発チームと共に、世界各国がしのぎを削る最先端の半導体製造に必須の技術である、EUV露光の高出力化に重要な役割を果たす、光源プラズマの複雑な流れ構造を世界で初めて明らかにしました。

EUV露光とは、非常に短い波長(13.5ナノメートル、1ナノは10億分の1)の光を用いる露光技術であり、半導体の2ナノメートル線幅以下の超微細加工に不可欠です。露光機内では光源からの光を転送するために多数の反射ミラーを利用しますが、EUV領域のミラー反射率は高くありません。そのため、極めて高出力なEUV光源(温度が30万度程度のプラズマ)が必要となります。EUVが光る原理を考えると、光源プラズマの温度とともに密度やプラズマの流れを把握し、制御することが基本となりますが、プラズマの寿命は20ナノ秒程度、大きさは0.5ミリメートル以下であるため、これまでプラズマ内部の高速流動現象の把握は困難でした。

今回、研究グループは、新開発したレーザートムソン散乱計測システムを用いて、世界で初めて秒速数10キロメートルの複雑なプラズマの流れを、非接触な方法で可視化することに成功しました。その結果、光源プラズマ内部では通常と異なる中心部への流れが存在し、その流れがEUV発光強度の増加に寄与していることを明らかにしました。この発見は、EUV光源のさらなる高出力化の鍵となる知見であると同時に、「プラズマの流れを制御して光の出力を向上させる」という、まったく新しい概念の可能性を示すものです。

なお、本研究成果は、202321日(水)公開のScientific Reports誌にオンライン掲載されました。

論文名:Observation of plasma inflows in laser-produced Sn plasma and their contribution to extreme-ultraviolet light outputenhancement(レーザー生成スズプラズマ内の内向き流れの観測とそのEUV発光強度増加への寄与)
URL:https://doi.org/10.1038/s41598-023-28500-8

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図の左から右に照射されたレーザーにより加熱されたプラズマ(EUV光源)が中心に集まる流れを持ち、特に図の明るい領域から効率よくEUV光が放出されることが判明した。
中心部への流れはプラズマが周辺に拡散する速度を抑え、周辺のミラーの汚染の低減にも効果的と考えられる。