2023年2月24日
ポイント
●恒常暗環境下での習慣的な運動が生物時計の階層構造に与える影響を遺伝子レベルで測定。
●運動が行動リズム、時計遺伝子発現リズムの時間的秩序を維持することを発見。
●生物時計の乱れが関わる疾患を予防する運動プログラムの開発に繋がる科学的根拠を提供。
概要
北海道大学大学院教育学研究院の山仲勇二郎准教授らの研究グループは、習慣的な運動が行動リズム、中枢時計・末梢時計の時計遺伝子発現リズムの時間的秩序を維持することを発見しました。
行動(睡眠・覚醒)および生体の多くの機能には、約24時間の概日リズム(サーカディアンリズム)が存在します。哺乳類におけるこのリズムの発振中枢は間脳視床下部視交叉上核に存在し、中枢時計と呼ばれています。生物時計の自律振動メカニズムは、複数の時計遺伝子の転写と翻訳からなる分子フィードバックループが想定されています。近年、生物発光技術の進展により、ホタルの発光酵素を導入したトランスジェニックマウスを用いることで、同一個体からの複数部位の時計遺伝子発現の測定が可能となりました。本研究では、哺乳類の主要な時計遺伝子であるPeriod1を生物発光によりモニター可能なトランスジェニックマウス(Per1-lucマウス)を用いて、通常の昼夜変化に同調した状態と、昼夜変化の存在しない恒常暗環境、そして恒常暗環境下で24時間周期の運動スケジュールを与える3つの条件で、行動リズム、視交叉上核、弓状核、肝臓、骨格筋といった末梢組織の時計遺伝子発現リズムの時間関係を比較しました。
その結果、恒常暗下での運動スケジュールに行動リズムが同調した際の視交叉上核と末梢組織における時計遺伝子発現リズムの時間関係は、昼夜変化に同調した状態と同様であることを世界で初めて明らかにしました。本研究の成果は、光を十分に得られない全盲患者や特殊な光環境下での生物時計の調節、および生物時計の乱れが関与する疾患の予防に、習慣的な運動が効果を持つことの科学的根拠となります。
なお本研究成果は、2023年2月20日(月)公開のAmerican Journal of Physiology-Regulatory, Integrative and Comparative Physiology誌にオンライン公開されました。
論文名:Nonphotic entrainment of central and peripheral circadian clocks in mice by scheduled voluntary exercise under constant darkness.(恒常暗下での習慣的な運動スケジュールは中枢時計および末梢時計を同調させる)
URL:https://doi.org/10.1152/ajpregu.00320.2022
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