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温度・圧力・電圧の同時制御が可能な新規合成手法の開発~高圧拡散制御法を用いた準安定物質の合成~(電子科学研究所 助教 藤岡正弥)

2023年3月23日

ポイント

●拡散を利用した準安定状態と高圧印加による緻密焼結状態を両立。
●電子伝導性の材料NaAlB14からNaを除去した準安定なバルク焼結体AlB14を合成。
●イオンや電子の輸送特性に関わる機能開拓に期待。

概要

北海道大学電子科学研究所の藤岡正弥助教らの研究グループは、イオン拡散技術と高圧印加技術を融合することで、新たな合成手法の開発に成功しました。

準安定な物質は単純な焼結では合成が難しく、新たな技術の開発が求められています。研究グループは、拡散現象を利用して、固体中から特定の元素だけを除去・導入・交換するような反応を促すことで、準安定状態の実現を目指しました。拡散を利用して物質の組成を変える場合、電子伝導性の物質は内部に電界がかからないため、拡散の駆動力として一般に用いられる電圧印加が利用できません。また、拡散が進行する物質の体積も同時に変化してしまい、特に多結晶を構成する結晶子は、組成変化に応じて膨張・伸縮し、粒子間の界面に生じるひずみやクラック等が、接触不良の原因となり、拡散反応を妨げるだけでなく、イオンや電子の本質的な輸送特性の評価を困難にするという課題があります。本研究では、化学ポテンシャルを利用したイオン拡散技術と、高圧印加技術の融合した高圧拡散制御法により、これらの課題をクリアしました。

この技術を用いて研究グループは電子伝導性を有する多結晶物質NaAlB14の結晶構造から、Naのみを拡散させて抜き出し、AlB14という新規準安定物質の多結晶体を合成しました。構造の骨格を保持したまま、Na濃度を減少させたことで、電子伝導特性を大きく変調し、AlB14の電気抵抗率は、室温で105倍以上減少することを見出しました。

この技術は固体中の結合状態が大きく異なる物資系に対して有効であり、今後は計算科学の活用により、有望な物質系が選定できると期待されます。これにより提案される様々な物質系に対して、組成変調による準安定状態と緻密な焼結状態が両立したバルク多結晶体を作り出すことにより、新たな機能の発現に繋がると期待されます。

なお本研究成果は、2023321日(火)公開のChemistry of materials誌に掲載されました。

論文名:High-pressure diffusion control: Na extraction from NaAlB14
URL:https://doi.org/10.1021/acs.chemmater.3c00318

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本研究で開発した圧力セルの断面を示している。6方向から圧力セルを加圧すると同時に、左右の電極を通してカーボンヒーターを加熱し、上下の電極で試料スペースに電圧を印加している。温度・圧力・電圧を同時制御することで、試料からNaが拡散除去される様子が描かれている。