2023年3月31日
北海道大学
浜松医科大学
産業技術総合研究所
ポイント
●脳由来の分泌ペプチドp3-Alcβがアミロイドβによる神経傷害を保護・回復。
●神経細胞のミトコンドリアを活性化。
●安全で簡便な経皮投与製剤として、新規治療薬の開発への道を拓く可能性。
概要
北海道大学大学院薬学研究院の鈴木利治特任教授(認知症先進予防・解析学分野)、同大学大学院生命科学院博士後期課程(研究当時)の齋藤 遥氏、浜松医科大学の尾内康臣教授、産業技術総合研究所生物プロセス研究部門の羽田沙緒里主任研究員、浜松ホトニクス株式会社中央研究所の塚田秀夫主幹、株式会社ペプチド研究所の熊谷久美子サイエンスアドバイザーらの研究グループは、脳内で分泌されるペプチドの「p3-Alcβ」が神経細胞中のミトコンドリアを活性化することにより、アルツハイマー病の原因因子であるアミロイドβが引き起こす神経毒性を抑制することを見出しました。
脳に薬剤を作用させようとすると、血液中の薬剤は血液脳関門(BBB)という強力なバリアによって通過を制限されます。しかし、末梢投与されたp3-Alcβは、アルツハイマー病のマウスモデルのBBBを透過して、アルツハイマー病によって活性が低下したミトコンドリアを活性化させることが明らかになりました。本研究によって、有効で安価なアルツハイマー病治療薬の開発につながることが期待されます。本研究成果をもとに、経皮投与の製剤化に成功し、臨床試験へ向けた準備を進めています。
なお、本研究成果は、2023年3月30日(木)公開のEMBO Molecular Medicine誌に掲載されました。
論文名:Brain p3-Alcβ peptide restores neuronal viability impaired by Alzheimer's amyloid β-peptide(脳由来p3-Alcβペプチドは、アルツハイマー病のアミロイドβペプチドによって損なわれた神経細胞の生存活性を回復する)
URL:https://doi.org/10.15252/emmm.202217052
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p3-Alcβの産生機構。p3-Alcβは神経膜タンパク質Alcadeinβ(Alcβ)から、Aβは神経膜タンパク質APPから切断酵素による切断を受けて細胞外に分泌される。