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遺伝性疾患のアンジェルマン症候群に有効な薬剤を発見~投薬による知的障害改善に期待~(医学研究院 助教 江川 潔)

2023年4月18日

北海道大学
浜松医科大学

ポイント

●アンジェルマン症候群の神経機能障害につながるメカニズムを発見。
●利尿薬の一つであるブメタニドをモデルマウスに投与することで認知機能障害が改善。
●アンジェルマン症候群の知的障害を改善させる内服薬の開発への貢献に期待。

概要

北海道大学大学院医学研究院の江川 潔助教、浜松医科大学の福田敦夫教授(研究当時)らの研究グループは、遺伝性の発達障害性疾患であるアンジェルマン症候群における、神経機能障害のメカニズムの一つを解明し、知的障害を改善しうる薬剤を特定しました。

アンジェルマン症候群は重度の知的障害、てんかん、運動失調など、様々な神経機能障害を示す先天性の発達障害性疾患です。出生15000人に対し1人程度発症するとされ、有効な治療法は確立していません。タンパク質の分解に係るUBE3Aという遺伝子の機能欠失を原因としますが、神経機能障害の具体的な機序も十分に解明されていません。

今回、研究グループは、クロライドイオンによって惹起されるGABA作動性神経伝達に注目し、神経細胞内クロライド濃度を調整するイオントランスポーター、NKCC1KCC2の発現がアンジェルマン症候群モデルマウスでは異常となっていることを見出しました。神経細胞内にクロライドイオンを汲み入れるNKCC1は増加、汲み出すKCC2は減少しており、NKCC1を抑制することが知られている利尿薬のブメタニドを慢性的に投与すると、モデルマウスの認知機能障害は改善することが明らかとなりました。また神経細胞のGABA持続電流は減少しており、細胞内クロライド濃度の制御は様々な機序で障害されていることが示唆されました。

ブメタニドは脳内への移行性が低いため、アンジェルマン症候群患者への治療応用は副作用の観点から困難が予想されます。しかし、脳NKCC1あるいはKCC2を標的とした薬剤は他の神経疾患の治療目的に近年開発が進んでおり、今回の研究がアンジェルマン症候群患者の知的障害を改善させる治療法の確立につながることが期待されます。

なお、本研究成果は、2023417日(月)公開のScientific Reports誌に掲載されました。

論文名:Imbalanced expression of cation-chloride cotransporters as a potential therapeutic target in an Angelman Syndrome mouse model(陽イオン-クロライド共輸送体発現の不均衡はアンジェルマン症候群モデルマウスにおける機能改善の対象となりうる)
URL:https://doi.org/10.1038/s41598-023-32376-z

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本研究の概略図。アンジェルマン症候群モデルマウスでは細胞内にクロライドを汲み入れるNKCC1が過剰となっており、その阻害剤ブメタニドを投与するとモデルマウスの認知機能障害は改善した。