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iPS細胞から免疫寛容を誘導する細胞を作製~iPS細胞を用いた移植医療への応用が期待~(遺伝子病制御研究所 教授 清野研一郎)

2023年6月14日

ポイント

●マウスiPS細胞から造血幹・前駆細胞(iHSPC)の分化誘導に成功。
●iHSPCを他家(他人にあたる)のマウスに注射し、20週以上生存させることに成功。
●上記のマウスにiHSPCと同じ種類のマウスから組織または細胞を移植したところ、免疫抑制剤なしに生着(免疫寛容の誘導に成功)。

概要

北海道大学遺伝子病制御研究所の清野研一郎教授、同大学大学院医学院博士課程(当時)の村田智己氏らの研究グループは、iPS細胞から造血幹・前駆細胞(iPSC-induced Hematopoietic Stem/Progenitor Cell:iHSPC)を分化誘導し、同細胞を用いて移植に伴う拒絶反応を制御することに成功しました。

現在行われている臓器移植では、ほとんどのケースでドナー(提供者)とレシピエント(受給者、移植患者)の間で免疫に関する遺伝子型が異なるため、拒絶反応が起きてしまいます。そのため、レシピエントは免疫抑制剤を生涯に渡って服用する必要があります。iPS細胞を用いた移植でも、ドナーとレシピエントが異なる場合(他家移植)、同様に拒絶反応が起きることが問題とされていました。

研究グループは、マウスを用いた実験で、ドナーとなるiPS細胞に造血に関わる因子(転写因子)を幾つか導入し、iHSPCを分化誘導することに成功しました。幾つかの前処置の後、他家のレシピエントマウスにこのiHSPCを注射したところ、20週間以上にわたってiHSPC由来の細胞が体内で生存していることが判明しました。このiHSPCを注射されたマウスにドナーiPS細胞と同じ遺伝子型の皮膚、またiPS細胞そのものを移植した場合、免疫抑制剤の投与なしに生着しました。

今回の研究成果は、今後のiPS細胞を用いた移植医療の開発に貢献することが期待されます。

なお、本研究成果は、2023525日(木)公開のAmerican Journal of Transplantation誌に掲載されました。

論文名:Induced pluripotent stem cell-derived hematopoietic stem and progenitor cells induce mixed chimerism and donor-specific allograft tolerance(iPS細胞由来造血幹・前駆細胞は混合キメラ状態並びにドナー特異的移植免疫寛容を誘導する)
URL:https://doi.org/10.1016/j.ajt.2023.05.020

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移植実験の工程。B6マウス由来のiPS細胞からiHSPCを誘導し、他家であるC3129F1マウスに注射した。その後、B6由来の皮膚またはiPS細胞を移植して生着を評価した。H-2k/bなどは免疫に関する遺伝子型を示す。