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不規則で無定形な枝分かれ型高分子が高効率な円偏光をつくる~らせん構造などの立体構造制御に依存しない高機能性キラル高分子の開発へ~(北海道大学触媒科学研究所 教授 中野 環)

2023年6月16日

ポイント

●不規則で無定形な枝分かれ型高分子が特定の相互作用を持たない低分子を大過剰に取り込み。
●取り込まれた低分子は液晶のように配列し、非常に効率の高い円偏光発光を示すことを発見。
●らせん構造などの高度な立体制御を必要としないキラル高分子材料新しい設計の可能性を示唆。

概要

北海道大学触媒科学研究所の中野 環教授と坂東正佳助教、同大学院総合化学院博士後期課程のウ ペンフェイ氏、カタンザロ大学のアドリアナ ピエトロパウロ准教授、金沢大学の前田勝浩教授、芝浦工業大学の永 直文教授らの研究グループは、立体構造が全く不規則な枝分かれ型(ハイパーブランチ型)構造を有するポリフルオレンビニレン誘導体が、分岐構造内部の隙間にアントラセンなどのキラル構造を持たない一般的な発光性低分子化合物を、特定の相互作用無く、大量に取り込んで液晶のような配列を誘起し、高分子~低分子複合体が高効率な円偏光発光を含む著しい光学的非対称性を示すことを発見しました(「キラリティートランスファー現象」)。

高分子のキラル特性は分離、触媒、円偏光発光等を含む機能に繋がるのものであり、これを発現させる高分子構造の設計は重要です。特に、一方向巻きの「らせん構造」は医薬品原料などの分離材料として実用化もされており、最もよく研究され、らせん構造制御の基礎となる高分子主鎖の立体特異性及び位置特異性の高度な制御法が開発されており、キラル機能実現のために精密な立体構造制御が必須であると考えられています。これに対して、研究グループは主鎖の立体特異性が全く不規則でらせん構造等を一切持たない枝分かれ型の無定形(アモルファス)なポリフルオレンビニレン誘導体が顕著なキラル機能を発現することを見出しました。この高分子の立体化学は側鎖にキラル源として導入したメオメンチル基を除いて全くランダムです。それにも拘わらず、この高分子は特定の相互作用によらず内部に取り込んだ低分子にキラルな配列を誘起し、配列した低分子は非常に高い効率の円偏光を示します。この成果は、らせん構造や立体構造制御に依存しないキラル高分子材料開発の新たな方向性を示唆するものです。

なお、本研究成果は、2023614日(水)公開のAngewandte Chemie International Edition誌にオンライン掲載されました。また、研究コンセプトを示すグラフィクスが速報論文欄(Communications section)の表紙挿絵(frontispiece)に選ばれました。

論文名:Amplified Chirality Transfer to Aromatic Molecules through Non-specific Inclusion by Amorphous, Hyperbranched Poly(fluorenevinylene) Derivatives(無定形な枝分かれ型ポリフルオレンビニレン誘導体による芳香族分子の特定な相互作用の無い取り込みを通じた不斉増幅転写)
URL:https://doi.org/10.1002/anie.202305747

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枝分かれ型高分子の構造(左)、高効率円偏光発光を示す高分子-低分子複体(右)