2023年7月3日
ポイント
●線虫が、静電気力を使って空中に飛び上がり、帯電している昆虫に飛び乗ることを発見。
●この跳躍行動は、線虫が100匹以上の束(柱)になっているときも可能。
●この跳躍は線虫の質量が著しく小さく、尻尾の先端だけで立てることにより可能。
概要
北海道大学電子科学研究所の佐藤勝彦准教授らの研究グループは、広島大学大学院統合生命科学研究科の杉 拓磨准教授らのグループと共同で、体長1mmほどの線虫(C. elegans)が、昆虫の持つ静電気を利用して空中を飛んで、帯電している昆虫に飛び移ることを発見しました。静電気を利用した異種の生物の相互作用としては世界で初めての発見です。
線虫C.elegansは、最もよく調べられているモデル生物の一つですが、自然界での生態に関しては実はよく分かっていません。今回の研究は、「地面を這うだけの小さく移動の遅い虫が、どのように世界中に広まることができるのか」という謎に、重要な見解を与える成果です。
静電場を利用した線虫の跳躍速度は約1 m/sで、線虫の這う速度の約1,000倍です。人で例えるのなら時速4 kmで歩いていた人が、突然弾丸と同じ速度で空に飛びあがるほどの行動の変化です。この跳躍は線虫1匹だけの時ならず、線虫が束になって立ち上がっている状態(線虫100匹ほど)でも行うことができます。つまり100匹の線虫が同時に一つの昆虫に飛び乗ることができます。このようなアクロバティックな行動がとれる理由は(i)線虫の質量が著しく小さいことと(m=10-10 kg)、(ii)線虫は尻尾の先端だけで立てる(基盤との界面張力をできる限り下げる)ところにあります。
小さな生物の世界では、質量の違いなどから私たちの日常の体験からは考えられないようなことが起こりえます。静電気力は日常的な力ですが、小さな生物がこの力をどのように使っているかはまだ分かっていません。これからますます多様な発見がなされることが期待されます。
なお、本研究成果は、2023年6月22日(木)公開のCurrent Biology誌に掲載されました。
論文名:Caenorhabditis elegans transfers across a gap under an electric field as dispersal behavior
URL:https://doi.org/10.1016/j.cub.2023.05.042
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