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氷の結晶成長過程を一分子レベルで再現~氷の界面構造と結晶成長ダイナミクスのつながりを解明~(低温科学研究所 助教 村田憲一郎)

2023年7月7日

ポイント

●過冷却水中で氷結晶が成長する様子を一分子レベルで再現することに成功。
●氷結晶の界面構造と結晶成長ダイナミクスの本質的関係を解明。
●氷晶成長制御や半導体結晶育成の新たな指針になることを期待。

概要

北海道大学低温科学研究所の村田憲一郎助教、浙江大学化学科の望月建爾教授らの研究グループは、大規模分子動力学シミュレーションを用いて、過冷却水中の水分子が氷結晶に取り込まれ、氷結晶が成長する様子を一分子スケールで再現し、氷結晶の界面構造と結晶成長ダイナミクスが密接に関係していることを発見しました。

氷の結晶成長の研究はこれまで多岐に渡る分野で長年精力的に行われてきましたが、成長時の一分子レベルの素過程については十分に理解されていませんでした。本研究では、氷のローカルな構造的特徴を抽出できる秩序パラメータを用いて氷の成長界面とその構造を同定し、氷の結晶成長が一分子層ずつ秩序を作りながらミルフィーユ状に進行することを見出しました。また、液体側の水分子の拡散ダイナミクスは界面の近傍で数分子層にわたり低下していること、界面と接する最表層の水の密度が氷よりさらに低い状態になっていることも発見しました。

さらにシミュレーション上で氷の成長条件をより低温にすると、液体側の水分子がそのまま氷結晶に取り込まれることで結晶が成長し、その結果成長界面が荒れること、そしてその界面のダイナミクスがより普遍的な非平衡界面の成長方程式であるKardar-Parisi-Zhang方程式(KPZ方程式)に従うことも明らかになりました。

今回の研究成果は、水から氷への成長という最も身近な結晶成長ダイナミクスを分子レベルで理解するための枠組みを与えると同時に、細胞・臓器等の冷凍保存で鍵を握る氷晶成長制御や、類似の結晶成長様式を示すと考えられるシリコンなどの半導体結晶の育成に向けた新たな指針となることが期待されます。

なお、本研究成果は、2023519日(金)公開のCommunications Materials誌に掲載されました。

論文名:Microscopic ordering of supercooled water on the ice basal face (氷ベーサル面における過冷却水のミクロな秩序形成)
URL:https://doi.org/10.1038/s43246-023-00359-2

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氷の構造を抽出する秩序パラメータ で見分けた氷-過冷却水の成長界面の様子(左)と氷結晶を構成する水分子のみを抽出した成長界面の様子(右)