2023年7月18日
ポイント
●従来、検出困難だった神経情報伝達分子を高感度かつワンストップで検出できる組織固定法を確立。
●様々なイメージング技術への応用と組み合わせが可能。
●モデル生物の生命科学研究からヒトの病理診断・医学研究への応用にも期待。
概要
北海道大学大学院医学研究院の今野幸太郎助教、渡辺雅彦教授らの研究グループは、2価のアルデヒドであるグリオキサールを主体とした新規組織化学固定法の確立に成功しました。
免疫組織化学法は、分子の局在を調べるために世界中で広く用いられている研究手法です。タンパク質の漏出や変性を防ぐ目的で、免疫組織化学法を行う前には必ず組織や細胞を化学的に固定します。アルデヒド系固定剤の一つであるホルムアルデヒド（いわゆるホルマリン）は世界的なスタンダード固定液として、これまで組織学や組織化学の研究に長年使用されてきました。しかし、ホルマリンはタンパク質を強力に架橋し組織を収縮させる性質を持つため、固定組織への抗体の浸透やアクセスを制限し、十分な染色性が得られない状態が多々生じることが問題でした。特に、神経情報伝達の場であるシナプスには情報を伝達するための受容体や輸送体、これらを特定の部位に集積させるための足場タンパク質などが高密度に密集しているため、ホルマリン固定組織では分子検出が困難となることが多く、その適切な検出には抗原露出のための特殊な操作や工夫が必要でした。
研究グループは、まずグリオキサールを主体とする固定液組成の最適化を行いました。次に、最適化されたグリオキサールによる固定組織を用いると、従来ホルマリン固定組織において検出困難であった分子に対しても、光学顕微鏡・電子顕微鏡レベルで高感度かつ簡便に検出できることを明らかにしました。グリオキサールを用いた染色性の向上は、げっ歯類のみならず霊長類であるマーモセット組織でも確認され、病理診断で用いられるパラフィン切片でも確認されました。今回の研究成果は、神経科学研究を大きく加速するとともに、モデル生物を用いる生命科学研究からヒト組織を用いる病理診断や医学研究への応用へも期待されます。
なお、本研究成果は、Science Advances誌で2023年7月14日（金）にオンライン公開されました。
論文名：Glyoxal fixation: an approach to solve immunohistochemical problem in neuroscience research（グリオキサール固定法：免疫組織化学染色における問題解決へのアプローチ）
URL：https://doi.org/10.1126/sciadv.adf7084
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上段：ホルムアルデヒドの化学式（左）とホルマリン固定マウス脳矢状断切片を用いたイオンチャネル型グルタミン酸受容体GluN1の染色像（右）。
下段：グリオキサールの化学式（左）とグリオキサール固定マウス脳矢状断切片を用いたGluN1の染色像（右）。グリオキサール固定により、ホルマリン固定では検出が困難な分子が容易かつ強力に検出できるようになる。
