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抗エストロゲン薬が免疫療法の効果を改善することを解明~免疫チェックポイント阻害剤の治療効果向上を目的とした新たな治療戦略の確立に期待~(遺伝子病制御研究所 教授 清野研一郎)

2023年8月4日

ポイント

●エストロゲン感受性を持たない腫瘍に対しても抗エストロゲン薬が腫瘍退縮を導くことを発見。
●抗エストロゲン薬の投与により免疫チェックポイント阻害剤の治療効果を改善できることを解明。
●抗エストロゲン薬を用いた全がん腫を対象としたドラッグリポジショニング戦略の確立に期待。

概要

北海道大学大学院医学院博士課程(日本学術振興会特別研究員)の梶原ナビール氏、同大学遺伝子病制御研究所の清野研一郎教授らの研究グループは、エストロゲン感受性を持たないとされる腫瘍においてもエストロゲンが腫瘍成長を促進しており、抗エストロゲン薬がその成長を抑制できること、さらには免疫療法(免疫チェックポイント阻害治療)の効果を改善できることを解明しました。

エストロゲンは、世間一般的に女性ホルモンと呼ばれており、女性の生殖器官や乳房をはじめとする性的発達に関与しています。がんの発生と進行においても、エストロゲンが重要な働きを担っており、実際エストロゲンへの曝露期間の長さが乳がんの発症に影響することも分かっています。しかし、がんに対するエストロゲンの影響は、エストロゲン感受性を持つ(エストロゲン受容体を発現している)腫瘍にのみ及ぶと考えられてきました。

本研究では、エストロゲン感受性を持たない(エストロゲン受容体を発現していない)腫瘍においても、エストロゲンが免疫系を抑制することで腫瘍の成長を促進していることを発見しました。また、抗エストロゲン薬の投与によりエストロゲンの働きを遮断すると、その免疫抑制が解除され、腫瘍の成長を遅延させることを明らかにしました。さらには、免疫チェックポイント阻害剤と併用することで劇的な抗腫瘍効果を得られることが判明しました。

今回得られた研究成果は、これまで一部の患者にしか使われてこなかった抗エストロゲン薬の適応拡大の可能性を示唆するものであり、抗エストロゲン薬を用いた全がん腫を対象としたドラッグリポジショニング戦略及び免疫チェックポイント阻害剤の治療効果向上を目的とした併用治療戦略の確立に繋がるものと期待されます。

なお、本研究成果は、202383日(木)公開のBritish Journal of Cancer誌にオンライン掲載されました。

論文名:Blocking of oestrogen signals improves anti-tumor effect regardless of oestrogen receptor alpha expression in cancer cells(エストロゲンシグナルの遮断はがん細胞におけるエストロゲン受容体アルファの発現にかかわらず抗腫瘍効果を向上させる)
URL:https://doi.org/10.1038/s41416-023-02381-0

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抗エストロゲン薬の一種(フルベストラント:FUL)及び免疫チェックポイント阻害剤(αCTLA-4)との併用治療がエストロゲン受容体陰性腫瘍の成長に及ぼす影響。