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移植片対宿主病の新たな発症機序を解明~より安全かつ有効な造血幹細胞移植への貢献に期待~(医学研究院 教授 豊嶋崇徳、准教授 橋本大吾)

2023年8月4日

ポイント

●シクロスポリンが、移植後に一過性疲弊T細胞を誘導し慢性GVHDを起こすことを発見。
●一過性疲弊T細胞は、慢性GVHDの原因となるが、抗白血病効果にも貢献していることを解明。
●免疫チェックポイント阻害薬への治療反応性を予測するバイオマーカーとしての臨床応用に期待。

概要

北海道大学大学院医学研究院の豊嶋崇徳教授、橋本大吾准教授らの研究グループは、同大学遺伝子病制御研究所の村上正晃教授との共同研究を行い、同種造血幹細胞移植後に標準的に用いられるGVHD(移植片対宿主病)予防薬であるカルシニューリン阻害薬(シクロスポリン)の投与が、ドナーT細胞の疲弊を抑制し、活性の高い一過性(transitory)疲弊T細胞を誘導することで、逆に慢性GVHDの発症に繋がることを、マウスモデルにおけるドナーT細胞の網羅的遺伝子発現解析を利用して発見しました。

さらに、一過性疲弊T細胞が、免疫チェックポイント阻害薬を用いることで活性化し、造血幹細胞移植後の白血病再発を抑制することも解明しました。これらの発見は、同種造血幹細胞移植後のカルシニューリン阻害薬の投与が慢性GVHDを効果的に抑制できないという、長年の疑問を解明する非常に重要な発見と考えられます。

さらに、一過性疲弊T細胞の定量は、GVHDの発症や免疫チェックポイント阻害薬への治療反応性を予測するバイオマーカーとして臨床応用されることが期待されます。

なお、本研究成果は、202383日(木)公開のBlood誌に掲載されました。

論文名:Calcineurin inhibitor inhibits tolerance induction by suppressing terminal exhaustion of donor T cells after hematopoietic stem cell transplantation(カルシニューリン阻害薬は同種造血幹細胞移植後のドナーT細胞疲弊を抑制することで免疫寛容誘導を阻害する)
URL:https://doi.org/10.1182/blood.2023019875

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同種造血幹細胞移植後のカルシニューリン阻害薬により終末疲弊T細胞の分化が抑制され、かわりに誘導された一過性疲弊T細胞によって慢性GVHDが発症する(右)。一過性疲弊T細胞によって、免疫チェックポイント阻害薬投与に対する反応性が維持され、抗白血病効果を発揮する。