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北極海における動物プランクトン優占種の生態が明らかに~将来に予測される環境変化に柔軟に対応できる能力を持つことが示唆~(水産科学研究院 助教 松野孝平、准教授 山口 篤)

2023年9月21日

ポイント

●太平洋側北極海の動物プランクトン相に優占する大型カイアシ類1種の生態を調査。
●同種内でも、摂餌生態や成長速度は、海域により大きく異なることが判明。
●将来に予測される環境変化に応じることのできる、柔軟な生態を持つことが示唆。

概要

北海道大学大学院水産科学研究院の松野孝平助教、山口 篤准教授、安藤靖浩准教授らの研究グループは、近年の温暖化の影響が最も顕著に見られる、太平洋側北極海の動物プランクトン相に最優占する大型カイアシ類カラヌス・グラシアリス(Calanus glacialis/marshallae)が、地理的な環境変化に応じて、体長、個体群構造、成長速度及び摂餌速度を変化させていることを明らかにしました。

ベーリング海から北極海の陸棚域の動物プランクトン生物量に最優占する大型カイアシ類カラヌス・グラシアリスは、魚類、海鳥、鯨類の重要な餌です。これまでの研究で、本種の寿命は1-3年と幅があり、環境や海域により変化することが報告されています。しかし、近年の気候変動により環境が急激に変化しつつある北極海において、本種がどのように適応しているかについては十分に理解されていませんでした。研究グループは2019年秋に、太平洋側北極海の陸棚域から海盆域に及ぶ広い海域にてカラヌス・グラシアリスの生態調査を行い、貧栄養塩な環境下では渦鞭毛藻類を多く摂餌していること、近年の海氷融解早期化により産卵期間が長期化している可能性や、同じ海域の同じ発育段階内においても、小型な個体は秋季であっても活発に摂餌を行うことを明らかにしました。

本研究の成果は、急激に環境変化している北極海において、本種がフレキシブルに適応する能力を持っていることを示しており、北極海海洋生態系の将来予測の精度向上に貢献する知見となります。

なお本研究成果は、2023920日(水)公開のFrontiers in Marine Science誌にオンライン掲載されました。

論文名:Geographic variation in population structure and grazing features of Calanus glacialis/marshallae in the Pacific Arctic Ocean(太平洋側北極海におけるCalanus glacialis/marshallaeの個体群構造と摂餌特性の地理変動)
URL:https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fmars.2023.1168015/full

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2019年の秋季の調査定点は4海域に区分される(左)。カラヌス・グラシアリスの各4海域における出現個体数と発育段階組成(右)。海盆域は若い発育段階が多く、再生産が最近まであったことが分かる。