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海洋細菌から新たなPBS分解酵素を発見~持続可能なプラスチック循環への貢献に期待~(水産科学研究院 教授 澤辺智雄)

2023年10月16日

北海道大学
三菱ケミカルグループ株式会社

ポイント

●海洋での分解性が乏しいポリブチレンサクシネート(PBS)を分解する海洋細菌を新たに発見。
●発見した海洋細菌からPBSを分解する酵素遺伝子を特定。
●特定したPBS分解酵素は既知のカビ由来酵素よりも分解活性が高く分解促進剤等への利活用に期待。

概要

北海道大学大学院水産科学研究院の澤辺智雄教授、三菱ケミカルグループらの研究グループは、海洋での分解性が乏しいポリブチレンサクシネート(PBS)に対し、分解性を示す海洋細菌ビブリオ・ルバー(Vibrio ruber、以下「V. ruber」)を発見し、さらに本海洋細菌から新たなPBS分解酵素の特定に成功しました。

海のプラスチック汚染は世界規模課題の一つであり、様々な技術を駆使して解決策を見いだしていく必要があります。生分解性プラスチックの開発はその解決策の一つです。ポリ3-ヒドロキシ酪酸(PHB)やポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)等の海洋環境下で生分解するポリマーが開発されている一方で、土壌やコンポスト環境下などではよく分解されるにも関わらず、海洋域では生分解性が減弱すると評価されているポリマーも数多く知られています。PBSもその一つです。バイオ原料由来のコハク酸を活用したPBSは生分解性バイオマスプラスチックの一つとして知られています。PBSの海洋環境下での難分解性の要因究明には、PBS分解性海洋微生物やそれら由来の酵素を特定し、それらの基本性質を解析することが必要です。

本研究では、まず、北海道沿岸から採取した海水中にPBSフィルムを浸漬させて培養したところPBSの分解と資化が認められました。このフィルム上では、ビブリオ科細菌の存在量が高まっていました。次に、様々な細菌を探索し、V. ruberPBSを分解できることが分かり、かつ、V. ruberのゲノム配列から新規なPBS分解酵素遺伝子の特定に成功しました。さらに、V. ruberPBS分解酵素を、大腸菌を使って生産させ、この組換え酵素の高度精製にも成功しました。このV. ruberPBS分解酵素はPBSフィルムを分解可能で、既知のカビ由来酵素よりも分解活性が高いことが分かりました。

本研究結果は、海洋細菌由来のPBS分解酵素を特定した初めての成功例です。このV. ruberPBS分解酵素の三次元構造をシミュレーションしたところ、既知のPET分解酵素の構造と極めて類似しており、本酵素によるPET分解能も期待されます。また、持続可能な社会形成に資するプラスチックリサイクルのさらなる発展や、海洋環境におけるPBS分解促進化技術開発への貢献が期待されます。

本研究成果は2023929日(金)にEnvironmental Microbiology誌に早期公開されました。

論文名:A lesson from polybutylene succinate plastisphere to the discovery of novel plastic degrading enzyme genes from marine vibrios(PBSプラススチスフェアから学ぶマリンビブリオ由来の新規プラスチック分解酵素遺伝子の発見)
URL:https://doi.org/10.1111/1462-2920.16512

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海洋細菌由来の新規PBS分解酵素の特定。