2023年10月16日
ポイント
●北海道のエキノコックス(多包条虫)の起源に関する仮説を遺伝学的に検証。
●人為的な動物の移動がエキノコックスの拡散・導入に関与してきたことを示唆。
●国内外における、エキノコックスの将来的な拡散防止に期待。
概要
北海道大学大学院獣医学研究院の野中成晃教授、中尾 亮准教授らの研究グループは北海道のエキノコックス(多包条虫、Echinococcus multilocularis)の由来を遺伝学的に検証し、北海道のエキノコックスが3,000 km以上離れたアラスカのセントローレンス島に起源をもつ可能性を示しました。
エキノコックスはヒトに感染して重篤な疾患を起こす寄生虫で、現在は道内に広く分布し、深刻な健康被害をもたらしていますが、本寄生虫は海外から侵入した外来種であるとされています。20世紀初頭、毛皮目的のキツネの飼養(養狐業)が千島列島で盛んに行われており、良質なキツネや餌となるネズミの供給を目的に動物の移入が行われていました。一つの仮説として、これら人為的な宿主動物の移動に伴い、アラスカのセントローレンス島起源の寄生虫が千島列島へと移入され、さらにこの千島列島の寄生虫集団が北海道本島に侵入したと考えられてきました。しかしこの北海道本島へのエキノコックス導入に関する仮説は新聞や公的文書など歴史的記録から得られた推測に過ぎず、寄生虫の起源に関する科学的知見は得られていませんでした。
本研究では、国内外のエキノコックスが持つ遺伝的情報(ミトコンドリアゲノム)を解析することで仮説と一致して北海道のエキノコックスはセントローレンス島に起源をもつ可能性を明らかにしました。さらに北海道東部には中国四川省の寄生虫と近縁な集団が存在することが分かりました。
グローバル化が進む中、世界規模でペットの移動や不法な輸出入など人為的活動によるエキノコックスの流行地から非流行地への拡散が危惧されており、国内でも北海道から本州への拡散リスクが指摘されています。本研究成果は、エキノコックスの拡散における人為的影響を強く示すものであり、新たなエキノコックス症の流行拡大の監視・防止に貢献する重要な知見となります。
なお、本研究成果は、2023年8月25日(金)公開のiScience誌に掲載されました。
論文名:Mitogenomic exploration supports the historical hypothesis of anthropogenic diffusion of a zoonotic parasite Echinococcus multilocularis(ミトコンドリアゲノム解析による、エキノコックスの人為的拡散についての歴史的仮説の検証)
URL:https://doi.org/10.1016/j.isci.2023.107741
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