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生成中のRNAは核小体の内部構造を制御する「界面活性剤」として働く~分子生物学とソフトマター物理学の融合研究で核小体の海島型多相構造の謎に迫る~(創成研究機構化学反応創成研究拠点 特任准教授 山本哲也)

2023年11月9日

北海道大学
大阪大学

ポイント

●核小体の海島型多相構造の形成機構を説明する理論の構築と定量的な検証実験に成功。
●生成途中のリボソームRNAの発生する表面圧が海島構造形成の原因であることを示唆。
●核内構造体形成の一般原理と機能を明らかにする研究への波及に期待。

概要

北海道大学創成研究機構化学反応創成研究拠点(WPI-ICReDD)の山本哲也特任准教授、大阪大学大学院生命機能研究科の山崎智弘特任講師(常勤)、二宮賢介特任講師(常勤)、廣瀬哲郎教授らの研究グループは、核小体のサブコンパートメントである繊維状中心の大きさは、転写の間に生成される新生リボソームRNAが発生する表面(浸透)圧によって制御されることを、ソフトマター物理学(理論)と分子生物学(実験)の融合研究によって明らかにしました。

核小体は、タンパク質の合成に必要なRNA-タンパク質複合体であるリボソームを生成する核内構造体です。核小体は一様な液滴ではなく、複数のサブコンパートメントが分散した海島型の多相構造を形成します。これまでの研究では、核小体の多相構造も「液液相分離」によって形成されていると考えられてきました。液液相分離とは、サラダドレッシングを放っておくと、水を主成分とする液体領域と油を主成分とする液体領域に分離してしまうのと同じ現象です。液液相分離で形成された液滴は、時間が経つと融合してしまうという性質がありますが、このことは複数のサブコンパートメントが分散しているということと矛盾します。リボソームの骨格となるRNAであるリボソームRNAを生成するプロセスである「転写」を抑制すると、(液液相分離によって形成された液滴のように)サブコンパートメントが融合することから、転写が海島構造を安定化する原因であると考えられます。

リボソームRNAの転写は、サブコンパートメントの表面で起きることが知られています。本研究では、生成途中のリボソームRNAがサブコンパートメントの表面に局在化されていることに注目し、サブコンパートメントの大きさを解析するための理論モデルを構築しました。この理論を解析することによって、毎分生成されるリボソームRNAの数を大きくすると、安定なサブコンパートメントの半径が大きくなり、数も増加しました。さらに、生成されるリボソームRNAの生成数を薬剤添加によって変化させたところ、構築した理論と定量的に一致する結果を得ました。

なお、本研究成果は、2023117日(火)公開のCommunications Biology誌に掲載されました。

論文名:Nascent ribosomal RNA act as surfactant that suppresses growth of fibrillar centers in nucleolus(新生リボソームRNAは、核小体繊維状中心の成長を抑制する界面活性剤として働く)
URL:https://doi.org/10.1038/s42003-023-05519-1

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