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チャンドラーウォブルの消失発見と原因解明へ~地球回転の予測精度向上と下部マントルの理解への貢献に期待~(理学研究院 教授 古屋正人)

2024年1月10日

ポイント

●自転軸の極付近での運動「チャンドラーウォブル」が2015年から消失していたことを発見。
●全球大気角運動量の寄与が2015年以降になって減少していることを初めて指摘。
●減衰時定数が従来の推定より短く、下部マントルの変形特性の理解に貢献。

概要

北海道大学大学院理学研究院の古屋正人教授と同大学大学院理学院博士後期課程1年の山口竜史氏は、19世紀末以来観測され続けてきた自転軸の揺らぎの一種「チャンドラーウォブル(Chandler wobble.以下CW)」が観測史上初めて2015年以降に消失していたことを発見しました。

CWは地球の固有振動の一つで、何らかの励起源が無いと観測されません。1990年代末まではその励起源が謎でしたが、2000年代初め以降には大気と海洋の全球的な変動が励起源であると認識されてきました。

なぜ観測史上初めて励起されていないのかを、大気、海洋、陸水の全球データを用いて調べました。気象庁とヨーロッパ中期気象予測センター(ECMWF)の独立な全球大気データに基づいて推定した大気の寄与が、ほぼ同様に2015年以降に小さくなっていることが判明しました。CWの励起過程はランダムなものと従来は考えられてきましたが、これは大気水圏変動の総和が偶然打ち消しあったわけではないことを示します。詳細は今後の研究が待たれます。

また、CWは常に観測されてきたため固有周期(1.2)は精密に測定されてきましたが、固有振動であれば一定の減衰時定数(Q)を持つはずです。しかしQ値の推定値は2000年以降でも研究者によって3倍以上異なっていました。マントルは速い時間スケールの外力に対しては弾性体(バネ)として振る舞い、地震学からはQ値は200-300程度と推定されています。今回の発見はCWQ値が100以下であることを示し、下部マントルは弾性体からのズレが顕著であることを示しています。

なお本研究成果は202412日(火)公開のEarth Planets and Space誌に掲載されました。

論文名:Can we explain the post-2015 absence of the Chandler wobble?(2015年以降のチャンドラーウォブルの消失は説明できるか?)
URL:https://doi.org/10.1186/s40623-023-01944-y

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(a)極運動(X成分)の観測値(赤)と年周成分の推定値(青)。(b)図(a)の観測値と推定値の差はチャンドラーウォブル(X成分)を示す。(c)1890年以降のチャンドラーウォブルのX成分。