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成層圏へのエアロゾル噴射による氷床の変化を予測〜グリーンランド氷床の体積減少を大幅に抑制できることが判明〜(低温科学研究所 教授 グレーべ・ラルフ)

2024年1月11日

ポイント

●エアロゾル成層圏噴射でグリーンランド氷床の体積減少を大幅に抑制できることが判明。
●氷床の表面融解や海への流出がエアロゾルの噴射により抑制され、氷床の安定化に寄与。
●人為的な手段を用いる気候工学には異論も多く、副作用などのリスクが存在。

概要

北海道大学低温科学研究所のグレーべ・ラルフ教授、ラップランド大学のジョン・ムーア教授らの研究グループは、「成層圏への人為的なエアロゾル噴射」という手法を用いた場合、2090年までにグリーンランド氷床がどのような影響を受けるかをシミュレーションで予測しました。

表面融解や氷河の周辺海域への流失(動的損失)で起こる海面上昇は、「太陽放射改変」と呼ばれる手法によって、氷床や海を冷却することで緩和できる可能性があります。この点の解明に向けて、研究チームは二つの氷床モデルを使用し、グリーンランド氷床の体積減少に起因する海面上昇を予測しました。予測に際しては、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の温暖化ガス排出の二つのシナリオ(「中位安定」「高位参照」)と、中位安定シナリオに「年間5メガトンの硫酸塩エアロゾルを成層圏噴射(1994年のピナツボ火山の噴火で噴出した量の4分の1相当)」の要素を加えるシナリオ(G4)を活用しています。G4では、2090年までにグリーンランド氷床の減少がIPCCの中位安定シナリオに比べ約31%38%抑えられる一方、中位安定シナリオでは高位参照シナリオに比べ36%48%抑制されることが確認されました。これは表面融解と動的損失が減少した影響と考えられ、本研究は温室効果ガスの削減と併せて気候工学を活用することで、気候変動の影響を抑えられる可能性を示唆しています。

この研究の結果は、20231127日(月)公開のJournal of Geophysical Research: Earth Surface誌に掲載されました。

論文名:Reduced ice loss from Greenland under stratospheric aerosol injection(成層圏への人為的なエアロゾル噴射によるグリーンランド氷床質量損失の低減)
URL:https://doi.org/10.1029/2023JF007112

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西暦1990年から2090年までのグリーンランド氷床の体積減少を、
海面上昇への影響から捉えたシミュレーション予測。