2024年1月18日
ポイント
●難治性の悪性リンパ腫「成人T細胞性白血病/リンパ腫(ATLL)」のPD-L1発現機序を解明。
●CRISPR-Cas9スクリーニングによってATLLのPD-L1発現に関わる重要な遺伝子を同定。
●ATLLに対する抗PD-L1抗体もしくは抗PD-L1CAR-T細胞療法の開発に期待。
概要
北海道大学大学院医学院の千葉雅尋氏と同大学大学院医学研究院の中川雅夫助教らの研究グループは、難治性T細胞性悪性リンパ腫「成人T細胞性白血病/リンパ腫(ATLL)」のPD-L1発現機序を解明しました。
ATLLは日本人での発症頻度が比較的高いT細胞性の悪性リンパ腫です。悪性リンパ腫の中でも、ATLLは既存の治療に対する反応性が特に乏しい疾患で、新しい治療法の開発が求められています。他のがんと同様にATLLにおいても、PD-1/PD-L1を標的とした免疫療法の開発が進められていることから、ATLL細胞のPD-L1発現機序を深く理解することが新規の治療法の開発につながります。
今回の研究では、新規ゲノム編集技術であるCRISPR-Cas9を用いてATLL細胞株内の約20,000種類の遺伝子を網羅的にノックアウトさせ、どの遺伝子がATLL細胞のPD-L1の発現に重要な役割を担っているかをスクリーニングしました。その結果、NEDD化関連遺伝子の発現低下によりPD-L1発現が上昇することを見出しました。この成果に基づいてNEDD化関連分子の阻害薬であるPevonedistatをATLL細胞に使用したところ、PD-L1発現が上昇することに加え、細胞傷害作用を併せ持つことも明らかにしました。これらの発見からPevonedistatとPD-L1を標的とした免疫療法の併用が有効である可能性が示唆され、実際にPevonedistatと抗PD-L1抗体もしくは抗PD-L1 CAR-T細胞を組み合わせたところ、ATLL細胞を効率的に排除できることを見出しました。
今回の結果からATLLに対するPD-1/PD-L1を軸とした新規免疫療法の開発が期待されます。
なお、本研究成果は、2023年12月24日(日)公開のBlood誌にオンライン掲載されました。
論文名:Whole genome CRISPR screening identifies molecular mechanisms of PD-L1 expression in Adult T-cell leukemia/lymphoma(全ゲノムCRISPRスクリーニングで成人T細胞性白血病/リンパ腫のPD-L1発現機序を解明)
URL:https://doi.org/10.1182/blood.2023021423
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