2024年2月6日
北海道大学
東洋大学
ポイント
●がんに対する免疫応答を大幅に増幅させるシステムを開発。
●転移したがんに対する有効な治療法としての応用に期待。
●従来の免疫療法が効かないがんに対しても有効な、新規がん治療法に期待。
概要
北海道大学大学院医学研究院の小林弘一教授らの日米共同研究グループは、免疫システムから逃れるがんを治療するための全く新しい技術の開発に成功しました。
人間の免疫系で腫瘍免疫の主役を担っているのは、がん細胞を見つけ出し、攻撃することができる細胞傷害性T細胞です。細胞傷害性T細胞はがん細胞に存在するがん抗原を認識することで、正常な細胞を攻撃せずにがん細胞のみを攻撃し、がんの発症を抑えています。細胞傷害性T細胞ががん細胞を認識するためには、がん抗原がMHCクラスIという分子と共に存在していることが必要不可欠です。多くのがんはMHCクラスIのレベルを低下させ、細胞傷害性T細胞から逃れようとします。こうなると、従来の免疫療法、例えば免疫チェックポイント阻害剤なども効果を発揮できなくなります。今回、研究グループはMHCクラスIの量を制御するNLRC5という制御因子の量を大幅に増加し、MHCクラスIの発現を増加させる新技術「TRED-Iシステム」を開発しました。
研究グループは、がん細胞ではNLRC5遺伝子がメチル化という修飾を受けることで発現できなくなり、結果としてMHCクラスIの発現低下を引き起こしていることに注目しました。TRED-IシステムはNLRC5遺伝子のみをターゲットにして、メチル化修飾の正常化と遺伝子発現を誘導可能にしたシステムです。この導入により、MHCクラスIの発現は増加し、細胞傷害性T細胞ががん抗原を認識してがん細胞を攻撃するようになります。動物実験において、TRED-Iシステムによるがん治療効果が認められた上、免疫チェックポイント阻害剤との併用の治療有用性も確認されました。特記すべきこととして、TRED-Iシステムは免疫活性化を通して、このシステムを導入したがん原発巣から離れたがんに対しても治療効果を示すため、転移したがんに対する有効な治療法としての応用が期待されます。本研究における技術開発は、今までとは全く異なる原理を用いた新たなアプローチによるがん免疫療法を可能にし、将来の様々ながん種に対する治療への応用が期待されます。
なお、本研究成果は、2024年2月1日(木)公開のThe Proceedings of the National Academy of Sciences誌に掲載されました。
論文名:Targeted demethylation and activation of NLRC5 augment cancer immunogenicity through MHC class I(NLRC5遺伝子をターゲットとした脱メチル化と活性化により、がんのMHC クラス I 依存性免疫応答を増強することが可能である。)
URL:https://doi.org/10.1073/pnas.2310821121
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