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ジャコウネズミは日本列島へ複数回移入された~隠された人の往来史の解明へ期待~(低温科学研究所 助教 大舘智志)

2024年2月13日

ポイント

●琉球列島や長崎に生息する住家棲ジャコウネズミの由来の推定に成功。
●遺伝子情報に基づくジャコウネズミの分子系統や集団の歴史を解明。
●文書に書かれていない日本列島南部の人の往来史の解明の進展に期待。

概要

北海道大学低温科学研究所の大舘智志助教らの研究グループは、ジャコウネズミの移動の歴史を遺伝情報に基づき調査しました。

ジャコウネズミはいわゆるネズミ類(齧歯目)とは異なり、モグラなどの仲間(真無盲腸目)であるトガリネズミ科に属しています。日本列島では琉球列島に生息し、かつては九州にも生息していました(近年絶滅)。ジャコウネズミは、元々は東南アジア大陸部や南アジアが原産地とされていますが、先史時代以降、人の移動に伴って分布域を広げ、現在では琉球列島、東南アジア島嶼部やインド洋の沿岸や島嶼部、アフリカ東岸部まで分布しています。しかしその詳細な移動ルートや移動時期については不明でした。今回、研究グループは、全ゲノムやミトコンドリア遺伝子配列の情報に基づいて、各地域の個体群の分岐年代や遺伝的多様性、交雑の可能性について検証しました。その結果、琉球列島に生息する個体群はベトナムや中国南部などの東南アジア方面の個体と密接な関係にあることが判明しました。また、ミトコンドリア遺伝子の系統に基づく推測から、琉球列島への渡来は約3,000年前である可能性が示唆されました。これはちょうどオーストロネシア系の文化が南琉球に現れたとされる時期と一致します。この時期に琉球列島で船による人の移動や交易が行われていたことを示唆するこの発見は、琉球列島の人類史において興味深い知見です。さらに、全ゲノム解析により、琉球列島の個体群が台湾やベトナムの個体群と交雑している可能性が示唆され、初回の移入後に何度かのさらなる移入が行われたことが予想されます。一方、長崎に生息していた個体群はマレーシアやミャンマー南部の個体群と近縁性が認められ、16世紀以降の九州を拠点とした海洋貿易による移入の関与が考えられます。

ジャコウネズミのゲノム学的研究は、人類の歴史や文化、海洋貿易に関する新しい見方を提供し、アジアからアフリカや中近東までの広範な地域における文化や疾病の伝搬に関する理解を深める上で重要な情報源となることが示されました。

なお、本研究成果は、2024130日(火)公開のZoological Science誌にオンライン掲載されました。

論文名:Phylogenetics and population genetics of the Asian house shrew Suncus murinus-S. montanus species complex, inferred from whole-genome and mitochondrial DNA sequences, with special reference to the Ryukyu Archipelago, Japan(全ゲノム及びミトコンドリアDNA配列により推察されるジャコウネズミの系統と集団遺伝:特に琉球列島に注目して)
URL:https://doi.org/10.2108/zs230030

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日本では琉球列島に生息するジャコウネズミ。ネズミの仲間ではなくモグラの仲間である。