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70年の時を経てアニオン重合反応の活性種観測に成功~精密な高分子材料合成への貢献に期待~(理学研究院 教授 永木愛一郎、特任助教 芦刈洋祐)

2024年3月13日

ポイント

●数秒で分解してしまう、アニオン重合反応の活性末端を赤外分光法により観測。
●重合活性種の構造や安定性を解明し、ブロックコポリマー合成反応の指針を獲得。
●不安定中間体の性質解明と新規素材合成技術への応用に期待。

概要

北海道大学大学院理学研究院の永木愛一郎教授、芦刈洋祐特任助教、京都大学大学院工学研究科の吉岡里佳子修士課程学生(当時)らの研究グループは、フロー型反応器と赤外分光器を活用し、アニオン重合反応中における活性末端の直接観測に成功しました。

アニオン重合は1950年代に初めて報告された化学反応で、プラスチックなど高分子材料の精密な合成が可能です。アニオン重合では、負電荷を帯びた中間体(重合活性種)が発生するとされていますが、重合活性種は速やかに分解してしまうため、反応中にこれを直接観測した例はありませんでした。つまり70年もの間、アニオン重合反応の仕組みに関する重要な情報が不明なままでした。

研究グループは、反応時間を精密にコントロール可能なフローマイクロリアクターと、高速な分析が可能なインライン分光装置を活用する「フラッシュモニタリング法」を開発し、重合活性種を発生直後に分析しました。オリゴエチレン系メタクリレート由来の重合活性種を発生させ、その0.88秒後にIR測定することにより、この活性種の直接観測に成功しました。さらに反応時間の制御により、本活性種が発生の2.1秒後には分解する、極めて不安定な化学種であることを解明しました。この活性種の性質を利用し、従来は困難だったオリゴエチレン系メタクリレートのブロック共重合反応を実現しています。この手法により、これまでアニオン重合反応に利用が困難あるいは不可能だった材料を使った高分子材料の合成が可能となり、さらなる高分子材料合成への展開が期待されます。

なお本研究成果は、2024312日(火)公開のChemistry: A European Journal誌に掲載されました。また、今回の研究成果が高く評価され、同日付で、本研究が掲載誌の表紙に選出されました。

論文名:Flowmicro In-Line Analysis-Driven Design of Reactions mediated by Unstable Intermediates: Flash Monitoring Approach(フラッシュモニタリング法、すなわちフローマイクロインライン分析により駆動する、不安定中間体を介する反応の設計)
URL:https://doi.org/10.1002/chem.202303774

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フラッシュモニタリング法によるアニオン重合活性種の分析の模式図