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南海トラフでの持続的なメタンと水素ガスの生成~海洋プレートの沈み込みによる世界最大級の微生物メタン生成~(北海道大学名誉教授 鈴木德行)

2024年3月6日

ポイント

●海洋プレートの沈み込みに伴う熱分解起源のメタンと水素ガスの生成を解明。
●地震発生帯でのメタンと水素ガスの生成、放出による多様なメタン活動。
●長大な沈み込み帯のメタン、水素ガス資源。今後の資源探査の進展に期待。

概要

北海道大学の鈴木德行名誉教授、北海道大学大学院理学院修士課程修了の小池恒太郎氏、岡山大学の亀田 純教授と海洋研究開発機構の木村 学アドバイザー(東京大学名誉教授)らの研究グループは、南海トラフにおいてフィリッピン海プレートと共に沈み込んでいる堆積物(アンダースラスト堆積物)中で、堆積有機物の熱分解によりメタンのみならず、水素ガスも主要な天然ガスとして持続的に生成していることを初めて解明しました。

南海トラフや相模トラフの周辺には主に微生物メタンを含む世界最大級のガスハイドレートや世界最大の生産量を誇る水溶性天然ガス田が分布しています。同地域において、なぜこのように活発な微生物メタンの生成が行われているのかこれまで不明でした。水素ガスは地下深部での水素資化性メタン生成菌による微生物メタンの生成に不可欠です。

紀伊半島沖の熊野灘付近では、熱分解起源のメタンと水素ガスの生成は過去約220万年間にわたって継続しており、これまでに南海トラフ1kmあたり約5,900m3/km(日本の年間消費量の約5倍)のメタンを生成し、水素ガスの生成量はそれ以上であることが推定されました。フィリッピン海プレートの沈み込み帯は、相模トラフから南海トラフ、南西諸島海溝を経て与那国島付近まで約2000kmあります。本研究は長大な沈み込み帯においてこれまでに莫大な量のメタンと水素ガスが生成されたことを示唆しています。フィリッピン海プレートは継続して沈み込んでおり、メタン・水素生成は現在も持続的に進行しています。メタン・水素生成帯は同プレートの地震破壊域と重複しており、地震発生に伴ってメタンや水素ガスが放出され天然ガス資源の形成に寄与していることが予想されます。

今回の発見により、フィリッピン海プレートの沈み込み帯における世界最大級の微生物メタン活動に関する理解が大きく深まることが期待されます。熱分解起源メタンは同地域での活発なメタン湧出や泥火山の形成に寄与し、深部にメタン溜まりを形成している可能性があります。また、水素ガスが地下深部に貯留されている可能性もあります。フィリッピン海プレートの沈み込み帯での持続的なメタン・水素生成が明らかになり、同地域での今後の資源探査の進展が期待されます。

本研究成果は、2024年2月21日(水)公開の国際学術誌Communications Earth & Environment誌にオンライン公開されました。

論文名:Thermogenic methane and hydrogen generation in subducted sediments of the Nankai Trough(南海トラフに沈み込む堆積物中での熱分解起源のメタン、水素の生成)
URL:https://doi.org/10.1038/s43247-024-01252-7

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(左)フィリッピン海プレートの沈み込み帯
(右)南海トラフ沈み込み帯での持続可能なメタン・水素生成と活発なメタン活動