新着情報

ホーム > プレスリリース(研究発表) > 尿路の障害に対し、動物とヒトは共通した機構で応答する~新しい考え方:尿は壊れた尿路から生体に戻り、17型コラーゲンを介して尿路の修復が始まる~(獣医学研究院 教授 市居 修)

尿路の障害に対し、動物とヒトは共通した機構で応答する~新しい考え方:尿は壊れた尿路から生体に戻り、17型コラーゲンを介して尿路の修復が始まる~(獣医学研究院 教授 市居 修)

2024年5月20日

ポイント

●尿の通路(尿路)が閉塞すると、尿路を保護する上皮バリアが壊れ、尿が生体に戻ることを証明。
●本来皮膚で機能する17型コラーゲンが、ネコやヒトの壊れた尿路上皮に現れることを発見。
●17型コラーゲンは尿路上皮の再構築と免疫誘導に関連し、診断・治療の標的になることを想定。

概要

北海道大学大学院獣医学院の難波貴志氏(研究当時博士課程4年)、同大学大学院獣医学研究院の市居 修教授、昆 泰寛教授(研究当時)、中村鉄平准教授、同大学One Healthリサーチセンターの大谷祐紀特任助教、同大学大学院医学研究院の夏賀 健准教授らの研究グループは、ネコ、マウス、ヒトにおいて尿路上皮が、閉塞などによって壊れると "17型コラーゲン(COL17A1)" を発現し、COL17A1は尿路上皮の再構築とその下層の局所免疫反応に関与することを見出しました。

これまで本グループは、ヒトや疾患モデルマウスの病理組織を調べ、腎炎に罹患すると腎臓内の腎盤に三次リンパ組織である尿路関連リンパ組織(UTALS)が形成されることを見出しています。このUTALSの発達には、尿路の上皮バリア機能の低下によって惹起される "上皮下組織への尿の滲出" が関与し、本来皮膚の上皮細胞を基底膜に繋ぎ留めるCOL17A1が尿路上皮の細胞に異所性に発現することを報告しましたが、その意義や他の動物との共通性は不明でした。

本研究ではまず、尿路の閉塞を起こしたネコとヒトの尿管を調べ、その尿路上皮でCOL17A1の発現が増えることを発見しました。次に、人為的に尿管を閉塞させたマウスを調べ、尿路が閉塞した際のCOL17A1の役割を解析しました。その結果、COL17A1は病態の進行に伴い尿路上皮で発現を増やし、さらには腎臓の障害を反映する間接的な病態マーカーになることが分かりました。また、本グループは腎盤内の上皮が特に壊れやすい部位を同定し、そこからCOL17A1の発現誘導が始まること、さらにCOL17A1は尿路上皮の修復及び局所の炎症誘導に関与することを明らかにしました。今後のさらなる研究の進展により、COL17A1はネコなどの伴侶動物やヒトの泌尿器病態の診断及び治療法の新たなターゲット分子になることが期待されます。

なお、本研究成果は、2024518日(土)公開のThe American journal of Pathology誌に掲載されました。

論文名:Collagen 17A1 in the urothelium regulates epithelial cell integrity and local immunological responses in obstructive uropathy(閉塞性尿路疾患において17型コラーゲンα1鎖は尿路上皮の完全性と免疫学的反応性を制御する)
URL:https://doi.org/10.1016/j.ajpath.2024.04.009

詳細はこちら


尿路の閉塞によって尿路上皮バリアは破綻し、COL17A1の発現とともにその再構築が始まる。