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伸びが止まっても綺麗な爪を保つ冬眠(低温科学研究所 教授 山口良文)

2024年5月13日

ポイント

●爪は、爪幹細胞の細胞分裂と細胞分化により伸び、全身状態の影響を受ける。
●冬眠中の低体温状態ではシリアンハムスターの爪は伸びない。
●冬眠を経てもシリアンハムスターの爪は綺麗。

概要

北海道大学獣医学部(研究当時)の石本太我氏、同大学低温科学研究所の山口良文教授、同大学大学院医学研究院の夏賀 健准教授らは、冬眠中は爪の伸びが止まるにも関わらず爪自体に異常は生じないことを、冬眠する哺乳類のシリアンハムスターにおいて見出しました。

爪は、指先の保護だけでなく、物を掴んだり、指先の細かい作業に重要な組織です。野生動物では巣穴を掘ったり、自身を守る武器としての役割も持っています。ヒトでは爪は健康のバロメーターとも言われるように、過剰なストレスや栄養不足・内臓疾患などで爪に異常が現れることがあります。こうした異常は、爪の成長を支える爪幹細胞の細胞分裂異常が原因となる場合が知られています。

ところで、哺乳類の中には、食糧が不足する冬を、必要なエネルギーを節約した低体温状態の冬眠により乗り切る動物がいます。こうした低体温状態は深冬眠と呼ばれ、酵素反応により媒介される多くの生命活動は抑えられます。からだの維持や成長に関わる細胞分裂も、深冬眠状態では停止することが、腸の上皮細胞などいくつかの臓器で報告されています。

では、冬眠の際は、爪はどうなっているのでしょうか。もし細胞分裂が止まるのならば、ヒトで見られるような爪の異常が生じるのでしょうか。この素朴な疑問に答えるため、研究グループは、低温・短日の冬条件での長期飼育で冬眠するシリアンハムスターの爪を詳細に調べました。その結果、冬眠を経験した個体でも、その爪は異常もなく綺麗に保たれることが分かりました。さらにいくつかの解析から、シリアンハムスターの爪は、低体温となる深冬眠中にはその伸びが大幅に抑えられますが、冬眠期間のなかで体温が正常体温に戻る中途覚醒と呼ばれる際には伸びることが分かりました。低体温で爪の伸びが止まるにも関わらず、なぜ爪に異常が出ないのか、その仕組みはまだ不明ですが、中途覚醒の際に巣穴の中に蓄えた餌を食べるといった活動のために、正常な爪を維持する利点がありそうです。

なお、本研究成果は、2024427日(土)公開のJournal of Physiological Science誌に掲載されました。

論文名:Nail growth arrest under low body temperature during hibernation(冬眠に伴う低体温での爪伸長の停止)
URL:https://doi.org/10.1186/s12576-024-00919-2

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爪の伸びは低体温となる深冬眠中は止まっているが、覚醒すると再開する。