2024年6月10日
ポイント
●北東ユーラシア永久凍土帯の最南端に位置するモンゴル全域の永久凍土温度を高解像度で復元。
●地表面被覆状態の違いに応じた永久凍土変動特性の多様性を解明。
●遊牧を支える生態系資源の動態理解や、将来の北極陸域環境の予測への貢献に期待。
概要
北海道大学大学院地球環境科学研究院の石川 守准教授らの研究グループは、複雑に分布するモンゴル永久凍土の1986年から2016年までの変遷を、これまでにない高解像度で復元しました。これは、日本とモンゴルの研究者が協力して蓄積してきた多地点での永久凍土観測データと、ノルウェーの研究者が開発した非定常熱伝導モデルを組み合わせることにより実現されました。モンゴルに点在する永久凍土は、乾燥した大地に樹木を生育させたり地表水を涵養したりするなど、住民の生活基盤となっています。その一方で、モンゴルは永久凍土融解に伴う乾燥化や森林の劣化が世界で最も早く顕在化するところで、その様相は急速に温暖化が進む北極陸域の将来の姿でもあります。
永久凍土はウランバートル周辺の森林地帯、中央部のフブスグールやハンガイ山脈、西部アルタイ山脈など、国土全体の約30%に分布することが示されました。中央部の乾燥地域や山岳域では永久凍土温度が顕著に上昇し、活動層も厚くなる傾向がみられた一方、森林地帯では温度や活動層の厚さに目立った変化はありませんでした。森林は日射を遮蔽し地中の昇温を抑える一方、永久凍土が保つ湿潤土壌に依存して成立しています。このような永久凍土―森林間での共生関係に関する知見は、シベリアに広がるタイガ林の現状や将来像の予見に役立ちます。さらに、本研究が作成した高い解像度の永久凍土温度分布変遷図は、近年顕在化してきた森林や湧水の劣化メカニズムの理解に大きく貢献します。
なお、本研究成果は、2024年5月29日(水)公開のPermafrost and Periglacial Processes誌に掲載されました。
論文名:Transient modelling of permafrost distribution from 1986 to 2016 in Mongolia(非定常モデリングによる1986年から2016年までのモンゴル永久凍土変遷の復元)
URL:https://doi.org/10.1002/ppp.2231
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ウランバートル近郊の典型的な景観。カラマツからなる対岸の森林斜面の地下には永久凍土が存在する。この永久凍土の温度は過去30年間にわたってほとんど変化していない。これは森林と永久凍土は共生してお互いを維持しているためである。