2024年6月12日
北海道大学
札幌医科大学
ポイント
●細胞内代謝産物であるイタコン酸が滑膜線維芽細胞の増殖及び浸潤を抑制することを発見。
●イタコン酸が滑膜線維芽細胞の代謝経路に及ぼす効果を解明。
●イタコン酸の関節炎動物モデルに対する効果を解明。
概要
北海道大学病院の河野通仁講師、同大学大学院医学研究院の渥美達也教授、同大学大学院医学院博士課程の多田麻里亜氏、工藤友喜氏らの研究グループは、同大学大学院医学研究院の岩崎倫政教授、遠藤 努助教、清水智弘講師、札幌医科大学医学部免疫・リウマチ内科学の神田真聡講師と共同で、細胞内代謝産物であるイタコン酸が、関節リウマチの病態形成に重要な滑膜線維芽細胞を抑制し、関節炎動物モデルの疾患活動性を低下させることを発見しました。
関節リウマチでは、関節を包む滑膜を形成する滑膜線維芽細胞が、免疫細胞から産生された炎症性サイトカインにより活性化し、過剰に増殖することでパンヌスと呼ばれる肉芽組織を形成します。パンヌスは関節軟骨や骨を破壊し、関節の変形や機能障害を引き起こします。現在、関節リウマチに対しては、免疫細胞またはサイトカインを抑制する治療が主体ですが、副作用として感染症にかかりやすくなることが問題であり、滑膜線維芽細胞をターゲットとする治療の開発が望まれています。
今回、研究グループは、イタコン酸が関節リウマチの滑膜線維芽細胞の増殖と浸潤を抑制することを発見しました。イタコン酸を添加した滑膜線維芽細胞では、細胞内代謝の主要経路である解糖系と酸化的リン酸化が抑制されていました。細胞内でイタコン酸を産生する酵素であるAcod1をノックアウトしたマウスに関節炎を引き起こすと、野生型のマウスよりも関節炎が増悪し、関節破壊の程度が強くなりました。さらに、関節リウマチのモデルラットの関節内にイタコン酸を投与すると、関節炎を改善させ、関節破壊の程度が減弱することも分かりました。イタコン酸は抗菌・抗ウイルス作用を有しており、今回明らかにした滑膜線維芽細胞及び関節リウマチモデルへの効果から、感染症のリスクを高めない関節リウマチ治療の実現に寄与すると考えられます。
なお、本研究成果は、2024年5月18日(土)公開のClinical Immunology誌に掲載されました。
論文名:Itaconate reduces proliferation and migration of fibroblast-like synoviocytes and ameliorates arthritis models(イタコン酸は滑膜線維芽細胞の増殖・遊走を抑制し、関節炎モデルを改善させる)
URL:https://doi.org/10.1016/j.clim.2024.110255
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滑膜線維芽細胞及び関節炎動物モデルに対するイタコン酸の効果
イタコン酸は滑膜線維芽細胞の増殖・遊走能を低下させた。その機序として解糖系・酸化的リン酸化抑制、コハク酸・クエン酸の蓄積を含むTCA回路の変化が関与していると考えられた。関節炎を生じたラットにおいて、イタコン酸関節内投与は関節炎スコアを改善し、骨破壊を抑制した。
*Ti; Tibia (脛骨), Ta; Talus (距骨)