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網羅的な誘導体合成法を用いた新規抗菌薬リードの開発~薬剤耐性菌にも有効な新規抗菌薬開発への貢献に期待~(薬学研究院 教授 市川 聡、助教 山本一貴)

2024年6月24日

北海道大学
札幌医科大学

ポイント

●構造が複雑な天然物の誘導体を簡便かつ網羅的に合成する手法の開発に成功。
●新手法では、構造を変換した数百種類の誘導体を一挙に合成することが可能。
●薬剤耐性菌にも有効かつ新たな薬剤耐性を生じにくい新規誘導体を複数獲得。

概要

北海道大学大学院薬学研究院の市川 聡教授、山本一貴助教、同大学大学院獣医学研究院の佐藤豊孝准教授、堀内基広教授、札幌医科大学の横田伸一教授、髙橋 聡教授、デューク大学薬学部のソクヨン リー教授、湧永製薬株式会社の風盛大地氏らの共同研究グループは、天然物誘導体の網羅的合成法と直接の生物活性評価を組み合わせた創薬プラットフォーム(in situビルドアップライブラリー法)を開発し、動物レベルでも有効な新規抗菌薬リード候補を開発しました。

既存薬が効かない細菌(薬剤耐性菌)の蔓延は世界的な問題ですが、新薬の開発は停滞しています。この状況が続けば、2025年には1,000万人の方が薬剤耐性菌による感染症で命を落とすとされ、新規抗薬剤耐性菌薬の開発は急務です。細菌の細胞壁の生合成を担うMraYを阻害する天然物は、薬剤耐性菌にも抗菌活性を示すことから、有望な新規抗菌薬リード候補として注目されています。しかし、抗菌活性・抗菌スペクトルは十分ではなく、そのままでは抗菌薬として用いることができません。そこで、これらの化学構造を改変する試みがなされていますが、その複雑な化学構造のため、化学構造を改変した誘導体の合成は容易ではなく、これらの天然物を基にした開発研究は滞っていました。

研究グループが開発したin situビルドアップライブラリー合成法では、複雑な化学構造を有する天然物の生物活性に重要な部分構造を有するコア化合物を用意し、構造が比較的単純なフラグメントとの連結により、大規模な誘導体群を簡便に合成することが可能です。この手法をMraY阻害天然物4種類に適用し、686個の誘導体を網羅的に合成することで、MraY阻害活性並びに抗菌活性が向上した誘導体を複数同定しました。さらに同定した高活性誘導体を基にさらなる構造改変を加えることで、in vivoモデルでも既存薬と同等以上の抗菌活性を示す誘導体を得ることに成功しました。本研究では、高活性誘導体とMraYとの複合体構造を、クライオ電子顕微鏡を用いて解明しました。これらの研究成果により、MraYを基にした抗菌薬開発に有用な知見をもたらし、新規抗菌薬開発の一助になることが期待できます。

さらにin situビルドアップライブラリー合成法は、抗がん活性を示すパクリタキセルなど3種類の天然物に適用し、585個の誘導体の合成と生物活性評価を短時間で達成しました。

なお本研究成果は、2024614日(金)公開のNature Communications誌に掲載されました。

論文名:Development of a Natural Product Optimization Strategy for inhibitors against MraY, a promising antibacterial target(天然物の構造最適化戦略による新規抗菌薬候補MraY阻害剤の開発)
URL:https://doi.org/10.1038/s41467-024-49484-7

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