2024年7月12日
ポイント
●ゲノム編集技術Crispr-Cas9を利用した、ゲノムの標的箇所への遺伝子導入に成功。
●ドナーDNAと一本鎖DNAにより、任意の配列をゲノムの標的箇所へ挿入可能。
●任意の遺伝子に挿入変異が可能となり、マリンバイオテクノロジー分野の進展に期待。
概要
北海道大学北方生物圏フィールド科学センター水圏ステーション室蘭臨海実験所の市原健介助教らの研究グループは、これまで安定した形質転換系の確立が困難であった海藻類を材料にし、ゲノム編集技術であるCrispr-Cas9を利用することで、標的遺伝子への挿入変異が可能な安定的な形質転換系の構築に世界で初めて成功しました。
海産緑藻であるアオノリは世界中の沿岸域に広く分布する緑藻で、複数の種についてゲノム情報が報告されています。しかし、逆遺伝学的な手法の開発はまだ初期段階にあり、遺伝子の機能解析や有用な遺伝子変異の誘導は困難でした。本研究では、Cas9タンパク質とガイドRNAから構成されるCas9 RNP複合体、ドナーdsDNA、Cas9 RNP複合体による二本鎖切断部位とドナーdsDNAに相同な配列をもつ一本鎖DNAを同時にアオノリの生殖細胞に導入することにより、任意の位置に遺伝子を挿入する手法を開発しました。本研究では高発現遺伝子として知られるrbcS(ribulose 1,5-bisphosphatecarboxylase/oxygenase)を標的とし、この遺伝子に緑色蛍光タンパク質であるGFPを挿入することに成功しました。また、より長いDNA(rbcSプロモーターによりGFPを発現する)断片の挿入にも成功しました。確立されたGFP挿入変異体は、数世代にわたって高いGFPの発現を維持しています。このゲノム編集による遺伝子挿入法は、制限はあるもののゲノム中の任意の場所に遺伝子などの挿入が可能で、海藻類における遺伝子工学と標的遺伝子の機能解析を大きく前進させることが期待されます。
なお、本研究成果は、2024年6月30日(日)公開のAlgal research誌に掲載されました。
論文名:Cas9 ribonucleoproteins and single-strand oligodeoxynucleotides enable targeted insertional mutagenesis in Ulva(Cas9リボヌクレオチドタンパク質と一本オリゴヌクレオチドがアオサ属での標的遺伝子への挿入突然変異を可能にする)
URL:https://doi.org/10.1016/j.algal.2024.103598
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