2024年7月23日
北海道大学
農業・食品産業技術総合研究機構
ポイント
●乳牛の繁殖で行われる胚移植後の受胎率と人工授精後の受胎率を比較。
●胚移植では、人工授精と異なり泌乳量増加及び分娩後日数による受胎率低下の影響が軽減。
●乳牛の受胎率向上のために、胚移植技術の有用性が示された。
概要
北海道大学大学院農学研究院の川原 学准教授らの研究グループは、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(以下、農研機構)北海道農業研究センターの山崎武志上級研究員、公益社団法人北海道酪農検定検査協会及び一般社団法人日本ホルスタイン登録協会北海道支局と共同で、胚移植(ET)による乳牛の受胎率に影響を及ぼす非遺伝的な要因(環境要因)を明らかにするため、未経産牛及び経産牛(初産牛と2産牛)の人工授精(AI)受胎率及びET受胎率に影響を及ぼす環境要因を比較分析しました。その結果、一般に乳生産の増加や分娩後の母体への負担といった受胎率を低下させる環境要因からの影響がETでは軽減されることを突き止めました。
本研究では、北海道内のホルスタイン種雌牛についてAI(n=1,870,143頭)及びET(n=29,922頭)が行われた個体の受胎成績を用いて、泌乳最盛期の乳量及び分娩から次のAIまたはETまでの日数によって初産牛と2産牛をグループ分けし、乳量及び分娩後日数が受胎率に及ぼす影響を評価しました。その結果、AI受胎率では乳量の増加に伴って受胎率が低下していましたが、ET受胎率では有意に低下を示しませんでした。また、分娩後日数が60日より早いタイミングでAIを受けた経産牛の受胎率は60日以降のAIより低下しましたが、ET受胎率は有意には低下せず、AI受胎率とは異なる特徴を示しました。
以上より、ETによる繁殖は、高泌乳や分娩といった一般に乳牛の妊娠成功率を低下させる負の影響を回避させ、分娩後60日以内であっても安定した受胎率を示すことが明らかになりました。従来、乳牛の泌乳や分娩による受胎率への負の影響については不可避なものとして、データに裏付けられた明確な対策はありませんでした。本研究によって、AI及びETの受胎率に対する環境要因の違いが示され、分娩し泌乳を開始した経産牛を用いた繁殖戦略におけるETの有用性が明らかになりました。
なお、本研究成果は、2024年7月3日(水)公開のJournal of Dairy Science誌(米国酪農科学会誌)のオンライン版に先行公開されました。
論文名:Characterization of conception rate after embryo transfer in comparison with that after artificial insemination in dairy cattle(人工授精受胎率との比較解析を通した乳牛における胚移植受胎率の特性)
URL:https://doi.org/10.3168/jds.2024-24805
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