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受精卵の発生過程における基本設計構築の仕組み~細胞極性確立に伴う細胞分化機構の解明~(農学研究院 准教授 川原 学)

2024年7月31日

ポイント

●個体発生で最初に作られる胎盤細胞の派生の仕組みが判明。
●細胞の方向付けである細胞極性の確立が細胞分化への信号に変化する仕組みが明らかに。
●細胞極性あるいは細胞分化に関わる遺伝子は多様な生命現象に関与。

概要

北海道大学大学院農学研究院の川原 学准教授らの研究グループは、岡山大学農学部の若井拓哉准教授らの研究グループと共同で、受精卵の発生において胎子及び胎盤の細胞分化に重要な分子経路として知られているHippoシグナルの調節に重要な足場タンパク質の一種であるNF2の新しい役割を突き止めました。マウス初期胚発生において、NF2タンパク質の細胞内局在を詳細に分析することで、細胞の方向性を決める細胞極性の確立とNF2タンパク質の局在が相互に関連することが判明し、受精卵の外側に位置する細胞の胎盤細胞への分化を調節する分子機構の一端が明らかになりました。

Hippoシグナルは、腫瘍形成、組織の恒常性維持、初期胚発生において、細胞の増殖と分化に重要な役割を果たしています。NF2を含むエズリン-ラディキシン-モエシンファミリーの足場タンパク質は、細胞極性を介してHippoシグナルを制御していることは知られていましたが、受精卵の発生過程で最初に役割が決定して分化していく外側に位置する細胞において、細胞極性を介してどのようにHippoシグナルが調節されているのか、その制御メカニズムは詳しく分かっていませんでした。本研究ではNF2タンパク質の一次構造に注目し、N末端の64番目アミノ酸を置換したL64P-NF2を作製し、この変異mRNAを発現する受精卵におけるHippoシグナルの主要分子YAP1の細胞内局在を評価することで、Hippoシグナル活性への影響を調べました。その結果、L64P-NF2変異体では細胞膜周辺への局在が阻害され、外側の極性細胞においてYAP1局在が細胞質局在に変化しました。L64P-NF2の発現はまた、外側の極性細胞におけるYAP1リン酸化酵素であるLATS2とエズリンの頂端ドメインへの局在化を阻害しました。これらの実験結果は、受精卵の外側細胞におけるNF2の細胞内局在が、エズリンなどの細胞極性関連タンパク質の局在制御を介してHippoシグナルを調節していることを示しています。本研究は、NF2、LATS2、そしてエズリンを含む細胞表面構成因子の秩序立った細胞内局在調節が、細胞極性確立過程においてHippoシグナルの調節に深く関わっていることを示す新たな知見となりました。Hippoシグナルは正常な細胞のがん化を防ぐシグナル伝達系としても注目されており、本研究の成果は受精卵の細胞分化機構の解明のみならず、細胞組織化を司る広範な生命現象を理解する上でも重要な研究成果といえます。

なお、本研究成果は、2024年7月30日(火)公開の英国発生生物学誌Developmentにオンライン掲載されました。

論文名:Hippo pathway inactivation through subcellular localization of NF2/merlin in outer cells of mouse embryos(マウス初期胚外側細胞におけるNF2細胞内局在を介したHippo経路不活性化の仕組み)
URL:https://doi.org/10.1242/dev.202639

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