2024年9月9日
ポイント
●早生のイネの生育ステージを厳密に分けることに成功。
●北海道のイネの特性である早生性の発生原因を解明。
●イネの生育期間の予測と出穂(しゅっすい)のコントロールに期待。
概要
北海道大学大学院農学院博士課程の坂口俊太郎氏と同大学大学院農学研究院の貴島祐治教授らの研究グループは、イネの葉の発達スピードと幼穂(ようすい)の出現を厳密に測定する手法を使って、イネの生育ステージを正確に区別することに成功しました。その結界、北海道で栽培されている早生(わせ)のイネが早期に穂を出す性質は、生長速度が早いことではなく、普通のイネでは普遍的に見られる基本栄養生長期と生殖生長期の間にある可消栄養生長期が極端に短いことに起因することを明らかにしました。可消栄養生長期は、基本栄養生長が終わった後、幼穂が発達を始める生殖生長までの間の"中休み"の期間に相当します。基本的に中生(なかて)や晩生(おくて)と呼ばれる生育期間の長いイネは、この"中休み"に当たる期間が長いと言われてきましたが、今回の研究によってその期間が具体的に定義づけられました。また、通常、イネの生育期間は日長や温度に強く影響を受けます。北海道の早生イネが長日で冷涼なイネに不向きな高緯度の環境でも安定して育つ理由の一つは、可消栄養生長期が短いことにより生育期間の変動が小さいためでありました。
さらに、可消栄養生長期の長さを制御している二つの遺伝子Ghd7とOsprr37のうち、北海道の早生のイネは、どちらも欠損していますが、Ghd7の欠損がより大きく影響することを示しました。また、中生品種の日本晴を用いて機能しているGhd7遺伝子をゲノム編集によって壊すと、典型的な早生の性質が現れました。以上の結果から、北海道で広く栽培されている早生のイネは、主にGhd7遺伝子の欠損により可消栄養生長期を失うことで、環境の変化にもあまり動じず休むことなく基本栄養生長から生殖生長へと愚直に生育していくことを明らかにしました。
なお、本研究成果は、2024年8月9日(金)公開のPlant Stress誌に掲載されました。
論文名:Stable early heading in photoperiod-insensitive rice varieties results from an extremely short photoperiod-sensitive phase and weak temperature sensitivity(早生イネ品種における安定した早期登熟は、極端に短い可消栄養生長期と弱い温度感受性に起因する)
URL:https://doi.org/10.1016/j.stress.2024.100561
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