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冷やしても死なない細胞の秘密~冬眠する哺乳類の細胞に学ぶ低温耐性の仕組み~(低温科学研究所 教授 山口良文)

2024年9月20日

ポイント

●シリアンハムスターの細胞は、冬眠をしない哺乳類の細胞に比べ、低温で長く生きる。
●シリアンハムスターの細胞が低温で生存するために重要な働きをする遺伝子を見出した。
●この遺伝子の量を増やすと、冬眠しないヒトやマウスの細胞が低温に強くなった。

概要

北海道大学低温科学研究所の曽根正光助教、山口良文教授らは、冬眠する哺乳類であるシリアンハムスターの細胞が長時間の低温に耐えられる仕組みの一端を明らかにしました。

哺乳類の中には、食糧が不足する冬を乗り切れるよう、エネルギーを節約するために冬眠を行う種がいます。シリアンハムスターは冬眠の際、10℃以下にもなる低体温状態を何日も持続させます。ヒトはこのような長期間の低体温状態では、脳、心臓、肺など様々な臓器の機能が不全となり死んでしまいます。

では、冬眠する哺乳類はどのような仕組みで長期間の低温状態に耐えられるのでしょうか。これまでの研究から、冬眠する哺乳類から取り出して培養皿で培養した細胞を冷やすと、ヒトのような冬眠をしない哺乳類の細胞を冷やした場合に比べ、長く生存することが分かっていました。つまり、冬眠する哺乳類の体を形作る一つ一つの細胞に、もともと低温への耐性が備わっているのだと考えられます。しかし、こうした細胞レベルでの低温への耐性が、どのような仕組みで発揮されているのかは不明でした。

そこで研究グループは、まず遺伝子工学の手法を用いて、シリアンハムスターの細胞で働く様々な遺伝子をヒトの細胞で働かせました。次に、それらのヒト細胞の集団の中で、長時間冷やした際に生存できる細胞を選別することで、低温への耐性を与えるシリアンハムスターの遺伝子を探しました。その結果、グルタチオンペルオキシダーゼ4Gpx4)と呼ばれる遺伝子を働かせると、ヒトの細胞を冷やした際の生存率が上がりました。反対に、シリアンハムスターの細胞でGpx4の働きを止めると、低温で生存できなくなりました。また研究グループは他にも、シリアンハムスターの低温での生存を支えている遺伝子を複数見出しました。Gpx4を含めこれらの遺伝子は、どれもヒトにおいてもゲノム上に備わっています。もしこれらの遺伝子の働きを、低温におかれた際のヒト細胞で引き出すことができれば、臓器移植の際、臓器の低温保存期間延長などへの応用が期待できます。

なお本研究成果は、日本時間2024919日(木)公開のCell Death and Disease誌に掲載されました。

論文名:Identification of genes supporting cold resistance of mammalian cells: lessons from a hibernator(哺乳類細胞の低温耐性を支える遺伝子の同定:冬眠動物から学ぶ)
URL:https://doi.org/10.1038/s41419-024-07059-w

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Gpx4を働かせるとヒトの細胞が低温で生存できるようになる。